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魔物討伐依頼!


 冒険者ギルドを出た咲良とジャックは、依頼主の居る鉱山地区の管理棟へ向かった。


 今いる市街地区と鉱山地区は幅5メートルほどの真っ直ぐ伸びた水路で隔てられていた。

 鉱山地区には採掘関係の施設と鍛冶屋が多く建っていて、砂埃や粉塵が空気を汚していた。

 南北へ真っ直ぐ伸びた水路は、砂埃や粉塵対策と鉱山地区への水の供給の為であった。

 水路の所々には荷馬車が通れる幅の橋が架かっていて、鉱山地区と市街地区を繋げていた。


 モンテラーゴの中心辺りにかかっている大きめな橋で水路を渡ると鉱山地区の管理棟があった。


 咲良とジャックは馬に2人乗りで水路の橋を渡り、正面にある管理棟に来た。

 管理棟は石造りの四角い3階建て、元々白い建物だったようだが、採掘や鍛冶で出る煙や埃でだいぶ汚れて黒く煤けていたが、それがまた存在感をかもし出していた。

 管理棟は鉱山地区全ての中心で、鉱山労働者の手配や、何処の採掘場で何を採掘するのか、採掘した鉱石をどう処理して何処の鍛冶屋に卸すのかなど、鉱山地区の全てを管理していた。


「埃っぽいところね、1日でまっ黒になりそうだわ」


「話しを聞いて、早めに依頼を済ませて市街地区に戻ろうかね」


 管理棟の錆びた鉄の扉を入ると、人族や獣人やドワーフなど屈強な男たちで賑わっていた。


 広い部屋に受付カウンターは、禿げたおっさんが座る1つだけだった。

 部屋の右端にはテーブルが幾つか置いてあり、居酒屋兼休憩スペースになっている。

 他は全て受付カウンターに並ぶ為のスペースの様で、幾重にも折り返した列で半分以上を占めていた。

 列に並んでいる男たちは、薄手のシャツにズボンなど動きやすそうな服装の者や、上半身裸の癖の強そうな者が多かった。


 そんな中、ジャックの格好は革の鎧に片手剣に盾を背負っているし、咲良は白と赤が眩しい巫女装束で、かなり浮いていた。


 みんなにじろじろと見られて落ち着かないジャックは、依頼の話しをしようと、受付カウンターの禿げたおっさんのところに行こうとした。

 すると、列に並んでいた癖の強い男たちから一斉に怒鳴られた。


「おいっ!ふざけんなよこのガキッ!」

「並ばねえでどこ行こうとしてんだ!」

「並べや小僧!」

「そんな事も分からねえのか!」

「俺たちが優しいのも今のうちだぞ!」

「帰れやボケッ!」

「ガキの来る所じゃねえぞ!」

「いてまうぞコラッ!」


 あまりの言われようにビビりまくるジャック。


「すっすいません、すいません、でも依頼が……」


「あぁああっ!?黙って並ぶか出てくかどっちかにしろっ!」


「あっすいません、すいません」


 ジャックは大人しく列の最後尾に並んだ。

 怯えていた咲良もジャックの服の裾を掴んで一緒について行った。

 大勢が並んでいた列は、受付カウンターが1つだからかなり待つかと思われたが、受付の禿げたおっさんの手際が良く、1人に10秒もかからず進み、程なくしてジャックの順番が来た。


 受付カウンターには、ボディービルダーの様な体つきで、ふてぶてしい表情の禿げたおっさんが座っていた。

 禿げたおっさんは、前の人が終わる直前に、指をチョイチョイ動かして次の順番の人を呼んでいた。


「ほらっ次っ!……いいならその次だっ!」


 その指の動きに一瞬遅れただけで順番を飛ばされそうになって焦るジャック。


「あっすいません、すいません」


「見ない顔だな初めてか。妹連れなのは感心せんな、足手まといだ。鉱山で働きたいなら朝早くに1人できな。よし次だ!」


 鉱山に働きに来る者は色々な事情を抱えている。

 まだ10代と若いが兄妹を連れに見えるジャック。

 鉱山で働くのに個人の事情は関係ない。身体は細く力は無さそうだが、仕事は教えればいいし身体は仕事をしてれば強くなる。

 若いってのはそれだけで採用される。

 受付の禿げたおっさんは、明日の朝に来いと言って終わりにしようとした。


 慌てて討伐依頼書を出すジャック。


「あっ、違います、これっ、これです」


 受付の禿げたおっさんは依頼書をチラッと見てすぐにジャックを見た。


「こりゃあ……ガキが妹連れでやれる依頼じゃねえぞっ、出来んのか?」


「はっ、はい出来ます」


 禿げたおっさんは咲良を見る。


「妹が死んでも知らんぞっ?ここは託児所じゃねえから、預かったりもしないからな」


「大丈夫です、さくらも冒険者なので2人で一緒に行きます」


「学校卒業したばっかって感じだな……」


 禿げたおっさんは、まだ20にもならないジャックと、10才くらいの女の子の咲良を見て悩んだ。


(鉱山内で子供に死なれても困るんだよな………まぁギルドが寄こしたんだから俺たちに責任はないし危なけりゃ逃げるくらいするだろう)


「分かったいいだろう。オルセ~~ット!」


 受付の禿げたおっさんは、自分の後ろに向かって叫んだ。


 ドタドタと走る音がしたかと思うと、禿げたおっさんの後ろの扉が開いて、ジャックと同じ歳くらいの熊の獣人が現れた。


「お呼びですかトマゾ管理長」


 トマゾ管理長と呼ばれた禿げたおっさんは、依頼書を熊の獣人オルセットに渡した。


「内容を説明して鉱山の採掘場現場まで連れてってやれ」


「分かりやした」


 トマゾ管理長は、前に立っているジャックなど気にせずに、指をチョイチョイと動かして次の順番の人を呼んだ。


「次だ!」


 ジャックは慌てて受付前を退いた。


「俺についてきな」


 熊の獣人オルセットに2階の個室に案内された。


「地図とか持ってくっから、そこらに座って待ってな」


 やっと静かになって、2人はソファーに座ってため息をついた。


 熊の獣人は、すぐに幾つかの資料を持って戻ってきた。

 向かいの席に座り、机の上に資料を広げて説明が始まった。


「俺はオルセット、トマゾ管理長の助手だ」


「僕はジャック」

「私は咲良」


 ジャックと咲良をいぶかしむオルセット。


「あんたら本当に冒険者か?どう見ても子供だし、この依頼は無理だろ。トマゾ管理長の指示だから一応説明するが、すぐに冒険者ギルドに帰って依頼は無理でしたって言って、他の人に変わってもらえよ?」


 ジャックはオルセットが自分を見てこの依頼は無理だと思うのも、まぁ仕方ないと思っていた。


「僕たちが若いから頼りなく見えるのは分かるよ、でも僕らは魔物を討伐出来るから、信じて欲しい」


 オルセットは立ち上がった。


「いやいやどう見たって無理だろ。トマゾ管理長に言われたから説明するが、粋がって無茶されるとこっちが迷惑なんだよっ!」


 子供扱いされた事にジャックも立ち上がった。


「子供って君だって同じくらいじゃないか!この程度の依頼なら楽勝だよ!」


「言ったな~!俺より貧弱なお前に出来る訳ないだろっ!」



 咲良が2人を止めに入る。


「まあまあ2人とも落ち着いて、オルセットさんはトマゾ管理長さんの為に説明はした方がいいんでしょう?ジャックも強いのは咲良が知ってるから大丈夫だから、2人とも座ってくれるかな?先ずは話しをしよう?」


 咲良に諭されて渋々座るジャックとオルセット。


 咲良はジャックとオルセットに微笑んだ。


「ありがとう2人とも、じゃあオルセットさん、説明をお願い出来るかしら?」


 オルセットはトマゾ管理長の事もあるので、仕方なく説明を始めた。

 広げた地図には幾つもの採掘場とその坑道の入口が書かれていた。

 その中でもっとも標高が高い場所にある採掘場が今回の目的地だ。

 標高4.500メートルにあり、年間で2ヶ月しか採掘作業が出来ないのだ。

 10ヶ月ぶりに鉱山労働者が採掘作業に行ったら魔物があまりにも多くて、すぐに引き返したらしい。

 これ以上始めるのが遅れると、今年は採掘が出来ないかもしれないのだ。

 いつもなら魔物数体なので、鉱山作業者たちで何とか倒せるのだが、多すぎて討伐依頼を出したそうだ。


 地図上の1番離れた採掘場を指差しながら、熊の獣人オルセットは説明する。


「この場所は貴重なバトルマリン鉱石が採れるから、なるべく早く採掘作業を始めたいんだ。管理棟から採掘場入口までは歩いて1日半だ。採掘場の坑道は、1番奥の大広間までは2キロ。その途中に採掘用の広間が9つある。1番手前の広間に魔物が20体居たみたいなんだ、1番奥の大広間までの魔物を討伐してくれ」


 怪訝な表情のジャック。


「手前の広間以外は魔物は居るの?」


 オルセットは表情を曇らせる。


「さあな、手前以外は特に聞いてないから分からない………さあどうする!やるのかやらないのか!」


 呆れるジャック。


「依頼書には採掘場内全ての魔物の討伐となっていて、魔物の数は20体くらいとなってるけど、今の話しを聞くとどう考えても20体じゃないよね?…………依頼の出し方が可笑しいよ。先ずは調査依頼を出して、その後討伐依頼をだすか、全ての広間に魔物が居る可能性も踏まえて討伐依頼を出さないと。今聞いた内容だと報酬が少なすぎるし、この倍の額でも誰も依頼を受けないよ」


 冒険者の命にも関わる事だし悪質な依頼の仕方なので、かなり怒っているジャック。


 全く取り合わないオルセット。


「魔物の数は20・く・ら・いって書いてあるだろっ!」


「それがおかしいんだよ!その2倍3倍じゃあきかない可能性があるじゃないか!」


「文句ばかり言ってないで、出来ないって言えよ!ギルドに帰ってお前じゃないもっとましなのを寄こせよ!小僧じゃ話しにならないんだよ!終わりだ終わりだ!」


「ああっこっちこそもう話す事なんて無いよっ!こんなのつき合ってられるか!この虚偽の依頼の事をギルドに報告するからなっ!」


 咲良が優しく話しかける。


「少しいいかしら、1番手前の広間に居たのはどんな魔物なの?」


 オルセットは咲良を睨んだが、子供すぎて相手にする気もなくした。


「ふんっ、聞いた話しだと、全部骨折りゾンビだったそうだ。骨折りゾンビかスケルトンが毎年現れるんだがいつもは数体なんだ」


「そう、骨折りゾンビだけなら変な魔法も使ってこないし大丈夫そうだわ。今までに入口近くの広間に20体いた事はあるの?」


「坑道内全て合わせても、20体いた事なんてないな。所々の広間に1体ずつ居るのが毎年の事だ」


「じゃあ、他の広間に20体ずつ居るかもしれないのね」


「………さあな」


 また怒って立ち上がるジャック。


「ふざけるなよ!本当の事も言わないで、いい加減な依頼書出して、死ぬんだぞ!お前たちの為に来た冒険者が死ぬんだぞっ!」


 ふてくされるオルセット。


「……入る前に話したんだからいいだろう、ど~せお前は引き返すんだから」


「そう言う問題じゃないんだよっ!採掘場の魔物を倒して欲しいんだったら、最初から正確な情報を出しなよ!この事はギルドに報告する!今後、君たち鉱山地区の依頼を冒険者ギルドは受けなくなるだろうね」


「なに言ってやがる!この街は俺たち鉱山地区で成り立ってるんだぞ!大人しく言う事聞いてりゃあいいんだよ!」


 咲良がまたまた間に入る。


「2人とも落ち着いて、オルセットさんたちは魔物討伐さえ出来ればいいんでしょ?」


「ぁあっ?……まぁそうだが、採掘が出来る様になれば問題ない」


「ジャックは今回の事をギルドに報告できれば、後はギルドが判断するからいいかな?」


「冒険者のみんなが不利をこうむらなくなればいいよ」


「じゃあこうしましょう。ギルドへの報告はするけど、魔物討伐もするわ。2人ともそれでいいかしら?」


 呆れ顔のオルセット。


「フンッ、お前たちに魔物を倒せる訳ないだろっ!もっとましな奴を呼ん……」


 バ~~ンッ!!

 バキバキッ!

 ガッタ~ン……………


 目の前のテーブルが真っ二つに割れた……


 オルセットが先日買ってきたばかりの丈夫が売りのテーブルが真っ二つに割れていた。


 デーブルを思いっきり叩いた格好のままの咲良を見てオルセットは固まっていた。


「買ったばっかのテーブルが………」


 咲良がゆっくりとオルセットを見る。


「ひぃっ!」


 冷や汗を掻いてビビるオルセット。


「魔物を倒せばいいのよねオルセット?」


 オルセットをジッと見る咲良。


「はっ………はい、そうです」


 咲良の口元が笑う。


「そうよね、良かったわ、じゃあ早速魔物を倒しに行ってくるわ」


「「えっ?今から?」」


 ジャックもオルセットも戸惑った。

 オルセットは子供の咲良をさとすように言った。


「採掘場の入口までは1日半かかるから、準備をして明日出発した方がいいと思うよ?…………って言うか辞めた方が……」


 静かに咲良が話し出す。


「大丈夫よ、地図をみて場所も分かったし、ジャックと2人なら今日中に行ってこられるわ」


 ビビって咲良に丁寧に話すオルセット。


「え~っと、この地図だと近くに見えるのかな?どんなに頑張って歩いても1日半かかるよ。案内で俺もついて行くから」


 咲良とジャックの2人なら『フライ』魔法で何とか飛んで行けると思っていたが、オルセットが一緒に来るとそんな事は出来ないので困る咲良。


「え~っ!ついてくるの?」


「ひぃっ!すいません………案内と討伐確認の為でもあるから……」


 オルセットは咲良の声にビビリながらも答えた。


「討伐の確認?もしかして入口だけじゃなく、採掘場の中までついてくるの?」


「そっそうなんだ、倒すところを見てないと分からないからね」


 魔物がかなり多かった場合には咲良が手伝う必要があるのだが、オルセットが一緒だと咲良が手伝えなくなってしまう。


「俺らはすぐにでも採掘作業を出来るようにしたいんだ。討伐して街まで戻って来てから採掘場に確認に行ってると、それだけで何日もかかるから」


 咲良はそれもそうだなと思い色々考えた。

「分かったわ、じゃあ明日の朝、採掘作業の人たちと一緒に行きましょう。採掘場に着いたら、みんなには外で待っててもらって私たちが魔物を倒してくるわ。魔石をそのまま残しておくから、その後すぐに魔石を集めてもらえば討伐の確認になると思うけどどうかしら?すぐに採掘作業にも入れるわよ?」


「確かに良い考えかもしれないけど…………討伐出来るかも分からないのに、鉱山労働者たちを連れて行っても大丈夫かなぁ?」


 咲良がソファーに座ったまま壊れたテーブルにドンッと足を乗せた。


「ひぃっ!」


 敏感にビビるオルセット。


「絶対に大丈夫だから…………ね、オルセット」


「はっはい分かりました………でも明日の朝に仕切り直すなら、もっと冒険者を増やせば………」


「この依頼の話しをギルドにしたら、私たちも含めて冒険者をギルドは出さないわ。今のうちに私たちが討伐してあげようって言ってるのよ!文句あんの!?」


 10才の咲良の迫力にビビりまくるオルセット。


「すっすいません、文句なんてありません。ありがとうございます」


「…………良かったわ。じゃあ明日の朝1の鐘(朝6時)の頃に来るから準備をよろしくね」


 そう言うと、咲良はジャックと共に部屋を出て行った。


 二人を呆然と見送ったオルセット。


(このテーブルは買ったばっかりだし、凄く堅い木を使った丈夫なテーブルのはずだったけど……)


 2つに折れた分厚い木のテーブルを見つめながらオルセットは、明日の朝までに咲良に言われた事をやる決意をした。


「出来なかったら間違いなく俺がテーブルのように真っ二つにされる………」



 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆


 読んで頂き有難う御座います。

             m(_ _)m


 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆

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