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ええっ?小花咲良商会?


 鉱山都市モンテラーゴの朝。


 鉱山地区に建ち並ぶ鍛冶屋の煙突からは、白い煙が上がっていた。


 朝食を宿で済ませた咲良たち3人は、2の鐘(午前9時)が鳴る頃に宿を出発して貴族街の商人ギルドに向かった。


 今日はジャンがいるので、すんなりと貴族街に入れた。


 貴族街は清掃が行き届いていてとても清潔で、建ち並ぶ建物には手の込んだ装飾が施されていて華やかな街並みだった。

 豪華な馬車が行き交う優雅な雰囲気の中を進むと、高々と上がる噴水が太陽の光にきらめいく涼やかで開放的な広場に出た。


 噴水広場に面した商人ギルドの建物は白い石造りの3階建てだ。

 壁面に施された手の混んだ装飾が豪華さを際立たせていた。

 馬を入口横に繋ぎ止め、咲良たちが商人ギルドの入口を入ろうとすると警備員が丁寧にドアを開けてくれた。

 咲良は日本に居た頃の高級ブランドショップを思い出していた。


 中は赤い絨毯が敷き詰められ、フロアーにはカウンターが2つ、周りには休憩用の高級そうなソファーが幾つか置いてあった。

 受付に行くと、金髪をロールアップしてまとめた受付嬢が、落ち着いた笑顔で迎えてくれた。

 服装は白地に黒いラインの縁取りがされたジャケットとタイトスカートを着て、出来るOLの様だった。


「おはようございます。ジャン様。私はサブリナと申します。ジャン様の事は冒険者として存じ上げているのですが、商人ギルドへはどのようなご用件でしょか?」


「あぁ、用事があるのはお嬢ちゃんだ」


 ジャンは自分の前に立っている咲良を示す様に視線を送った。


 まだ10才程に見える咲良に、サブリナはカウンター越しに覗き込む様に話しかけた。


「これは失礼致しました。サブリナと申します、宜しくお願いします」


 サブリナはジャンに接するのと変わらぬ笑顔で右手を差し出した。

 咲良も右手を差し出して、握手をしながら挨拶をした。


「初めまして、小花このはな咲良さくらと申します」


 サブリナの表情と動きが止まった。


 商人ギルドの人間なら小花咲良の名前は誰でも知っている。

 今、もっとも話題になっているボスコの商人の名前だ。

 多くの人が欲しがる希少価値のある商品をオークションにかけ、すでに貴族の間での人気は1番だ。

 芸能活動も始めて神楽公演も話題になっていた。

 神楽の時の衣装はまだ販売されていないが、白と赤のエレガントな服をサブリナは知っていたので、咲良がそれを着ているのも気がついていた。

 だがサブリナは咲良が本人だとは思っておらず、きっと小花咲良が好きで、子供がなりきっているのだと考えた。


(ジャン様は確か、ボスコに行ってらしたのよね……)


「巫女の衣装が販売されていないのに娘さんにプレゼントとは、流石ジャン様ですね、娘さんの見た目はバッチリ、話題の小花咲良様に成りきれてますよ。とってもお似合いですね」


 咲良は説明が面倒くさいので、勘違いしているサブリナをスルーして、カウンターに赤色の商人ギルドカードを出した。


 咲良が最初に商人ギルドに登録した時は白いギルドカードだったが、ボスコを旅立つ時にダニエラが更新してくれたのだ。


 白いギルドカードがだいぶ汚れてきたようなので新しいカードを用意しておきましたと言いながらダニエラは咲良に渡した。

 咲良には汚れているようには見えなかったが、赤のギルドカードが綺麗だったので喜んで受け取った。


「小花咲良です、相談があって参りました」


 サブリナは差し出された赤色のギルドカードを、恐る恐る受け取って確認した。


「えっと…………Cランクのロッソ?………はいっ…………確かに本物です!失礼致しました!」


 魔道具でギルドカードを確認したサブリナは、信じられないながらも頭を下げて謝罪してギルドカードを咲良に返した。


「子供の様な容姿だとは聞いてましたが、まさか本当にお子様だったとは………」


 まだ放心状態のサブリナに子供だお子様だと言われてムッとしながら咲良は話しかけた。


「えっと舞台の事で相談に来たの………話してもいいかしら?」


「はっ、すっすいません、ご用件は2階の個室で伺いますのでどうぞこちらへ」


 サブリナはまだ信じられないのか擬古ちない応対になっていた。




  *  *  *  *  *




 個室で咲良を真ん中にしてソファーに座っているジャンとジャック。

 目の前のテーブルに飲み物とお菓子が置かれていた。

 目の前にはサブリナが座っている。


 咲良は迷わずお菓子に手を伸ばす。

 見た目はクッキー、味は………薄かった、砂糖が少なく、バターは使ってなかった。

 まるでダイエット食品のようで、期待した味ではなかった。


 咲良が微妙な表情をしていると、それを見てサブリナが話しかけてきた。


「世間でも人気のモコと言うお菓子ですが、いかがですか?」


「えっ、人気があるって事はこれは美味しいのね……」


 確認の為にサブリナも1つ食べてみる。


「はい、この味で間違いありません、人気のモコです」


「そう、悪くは無いですが、もういいかな」


 サブリナはあきらかに美味しくない顔の咲良に聞いてみる。


「咲良様がもっと工夫するとしたらどうしますか?」


「そうね、咲良だったらもっとお砂糖を入れるし、バターを使うかな」


「お砂糖?バター?それはいったい何でしょうか?」


「そうか、え~っと、白くて甘い粉みたいなのと、動物が出すお乳を使った食べ物よ」


「動物?魔物のお乳って事でしょうか?聞いた事ないですね、魔物が乳を出すとしても襲ってきますから誰もやった事ないです。白くて甘い粉はシュガーの事でしょうか?かなり高価な商品です」


「シュガーってのがあるのね…………都合のいい名前だわ。馬って動物?」


「魔物です。魔素の影響を少なめに受けた個体は従順で扱い易く、影響を多く受けた個体は自我が強く襲ってきます」


「そう、生き物は基本的に動物ではなく魔物なのか。牛もいないのね…………そうだ、モーウルフからお乳はとれるの?」


「モーウルフは気性が荒く誰もやった事はないですね。魔物の乳でしたら、最近王都の近くで食され始めたと聞いた事があります」


「まあ!あるのね」


「確かホワイトシープからとれる乳なのですが、すぐに傷んでしまうので貴族の一部で食されてるだけだと聞きました」


(魔物はすぐ襲ってくるから乳製品が発展してないのか………難しそうね)


「そうありがとう。従順な馬はどうやって捕まえてるの?」


「昔から魔素の影響の少ない土地で、従順な馬どうしをかけあわせて育てる仕事があります。最初に誰がどうやったかは昔すぎて分かりません」


「なるほど、色々な可能性はあるみたいね。今度時間ができたら色々とやってみようかしら」


「なんかとても大きな商売の匂いがします。ぜひ私にも協力させて下さい、楽しみにお待ちしてます」


 不敵に笑うサブリナ、なんか笑い方がダニエラさんに似ていた。


 立ち上がって姿勢を正すサブリナ。


「改めまして、出会いで小花咲良様本人を間違えるなど失礼な事を致しまして大変申し訳ありませんでした。商人ギルドスタッフとしてお恥ずかしい限りです」


 深々と頭を下げるサブリナ。


「いえいえ、初めてお会いしたのですからしょうがないですよ。咲良だって逆の立場だったら分からないです。どうぞ頭を上げて下さい」


「ありがとうございます。まだ10才とは思えないですね、流石あっという間にCランクのロッソになられた方です。益々将来が楽しみですね」


「Cランクのロッソ?……ていうか商人にランクがあるの??」


 サブリナが笑顔で教えてくれた。


「はい、商人にも冒険者の様なF・E・D・C・B・A・Sランクが御座います」


 サブリナが説明してくれたランク条件は次の通りだ。


F 白色・ビアンコ

 丁稚奉公

 登録料さえ払えば誰でもなれるかけ出し。

E 水色・アズーロ

 屋台商人

 屋台を持っていて黒字経営である事。

 屋台を持っているが赤字経営ではEランクになれないのだ。

D 青色・ブルー

 店舗商人

 店舗を構えていて黒字経営である事。

C 赤色・ロッソ

 貴族街に店を持ち、黒字経営である事。

 4店舗以上持つ事。

 商会を立ち上げる事。

 ※このランクになると、貴族街に自由に入る事が出来る。

B 銅色・ラーメ

 国の主要な街全てに店を構える

A 銀色・アルジェント

 2ヶ国以上の主要な街全てに店舗を構える

S 金色・オーロ

 主要な国の主要な街全てに店を構える


 そのままサブリナさんの説明は続いた。


「そして商人はCランクと呼ぶ者は少なく、主にカードの色で呼びます。小花咲良様は赤色ですのでロッソです。商人になって間もない小花咲良様がすでに小花咲良商会を立ち上げていらっしゃるのですから、ロッソなのは当然ですね」


「えっ?小花咲良商会?咲良は知らないわよ?あとCランクロッソの説明に4店舗ってあったけど、1店舗も持ってないわよ?」


「商会を立ち上げて条件の一つをクリアーされていらっしゃるから大丈夫です。先ほど確認させて頂いた時に小花咲良商会当主となっておりましたので間違いありません。商会を立ち上げる条件は大変厳しいのですが、アドバイザー欄にダニエラ主任の名がありました。その下の協力者欄にボスコの領主や貴族の名も多くありました。領主やこれだけの貴族の協力者がいるのですから、商人ギルドとしても小花咲良商会を認めたのでしょう。たぶんダニエラ主任が手を回したのだと思います。ボスコではダニエラ主任が担当職員だったのではないですか?」


「ええ、確かにダニエラさんが色々と話しを聞いてくれました…………そう、ダニエラさんが小花咲良商会を…………主任?」


「あっ私にとってはずっと主任なのです。私が王都のギルドに入りたての頃の上司がダニエラ主任でした。色々教えて頂きましたし大きな失敗をしても守って頂きました、今の私があるのは主任のお陰ですので、未だにダニエラ主任と呼んでしまいます。とても優秀な方で、ギルドに入って1年で主任になり、更に1年で副ギルド長になり、現在各ギルドを廻って、ゆくゆくは王都のギルド長になる方だと言われています。そのダニエラ主任の名前が小花咲良商会のアドバイザー欄に載っておりましたので、全てはダニエラ主任がおこなった事で間違いないでしょう」


「ダニエラさんって、そんな凄い人だったのか」


「とても忙しい方なので、商会のアドバイザーになる事は無い筈なのですが、相当小花咲良様を気に入られたのでしょう」


「ほえ~、どの辺が良かったのかな、次に会ったときにお礼を言わないと…………きちんとしないと嫌われちゃうかな…………。あと、さっきの説明でCランクのロッソって貴族街に入れるって言ってた気がするけど……………どう言うこと?」


「はい、そのままの意味ですよ?ロッソ以上の商人は、ギルドカードを提示すれば貴族門で止められる事なく自由に貴族街に入れます」


「うっそぉ~っ!!商人ギルドカードを見せれば貴族街に入れたんだ…………」


 つまり昨日貴族門で商人ギルドカードを出せば、揉める必要は無かったのだ。

 ダニエラは咲良の為に色々と助けてくれていたのだ。

 咲良はダニエラに感謝しつつ、今後の貴族相手も商会が大きくなったら何とかなるんじゃないかと考えていた。



 その後、神楽の公演の相談をした。


 最低でも咲良と同い年の子供や、前後の年の子供には全員見て貰いたい事と、その為の場所の確保と、公演の回数はなるべく少なくなどを伝えた。


「分かりました、さっそく検討してまとめてみますので……明後日の昼頃にまたお越し頂けますか?」


「明後日の昼ね、分かったわ。あとこれをオークションに出したいの」


 と言って咲良が編んだぬいぐるみを2体、リュックから出してテーブルに置いた。


「あらまっ、こちらはあの貴族の間で人気のぬいぐるみですね、ボスコ以外ではあまり出回って無いので高値が付くと思いますよ」


「最近中々忙しくて編む時間が無かったのよね、じゃあお願いね」


「はい、お任せ下さい」


 サブリナは2体のぬいぐるみを、両手で抱きしめていた。


 サブリナが頑張ってくれたなら、ぬいぐるみを編んでプレゼントしてあげようと思う咲良だった。



 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆


 読んで頂き有難う御座います。


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             m(_ _)m


 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆




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