鉱山都市 モンテラーゴ!
夕陽に赤く染まる切り立った山肌。
その麓に山と共存する様にプレッツェル領の鉱山都市モンテラーゴがあった。
人口も面積もボスコの倍以上で、高さ10メートル超えの防壁が街を守っていた。
規則正しく削られた山肌は、鉱石を採掘した傷跡だ。
街のあちこちにある鍛冶屋の煙突からは煙が上がっていた。
街は鉱山と平行に流れる水路で東西に分けられていて、山がある東側は鉱山地区で採掘施設や鍛冶関係の建物が多く、西側は人々が生活をする市街地区だ。
市街地区の中央には領主の館があり、その回りが貴族街、更にその回りが平民街である。
モンテラーゴに門は2つ、ボスコ方面へと出る北門と、ロンバルディア平原に至る南門がある。
ロンバルディア平原は、王都や国境都市など多くの都市に繋がる広大で緑豊かな平原だ。
モンテラーゴを訪れる者はまず南門から入るので、北門よりも立派で正門と呼ぶ者も居た。
* * * * *
夕暮れ時、北門に着いたアリーチェたちの馬車は、モンテラーゴに入る為の列に並んだ。
南門程ではないが、そこそこ人が並んでいて、順番がくるまで1時間はかかりそうだった。
近くで見る防壁はとても高く、石で造られとても頑丈そうだった。
木と鉄で造られた北門の扉は分厚くて数人がかりじゃないと開かなそうだ。
「うわぁ~すご~い、大きな防壁!ボスコよりも立派だわ」
御者台の後ろから覗き込んで咲良が騒いでいた。
ミーナは色んな街や都市を旅してもっと大きい街も知っているので、モンテラーゴの大きさにはしゃいでる咲良を微笑ましく見ていた。
「ははっ、さくらは生まれは何処なんだ?」
「ラダック村よ、村を守る為の柵も門も無かったわ。ボスコも大きかったけどモンテラーゴはもっと凄いのね」
「そっか、ラダック村から来たなら驚くだろうな、もっと大きい街もあるんだぜ!」
「へぇ~、もっと大っきい街かぁ」
(これだけの大きさじゃあ、広場とかで1回神楽を舞ったからって、みんなに観てもらえる訳じゃなさそうね……更にもっと大きい街となると大変だわ……)
防壁の大きさに驚きつつも咲良は神楽の事を考えていた。
「人が多くなれば変なのもいっぱい居るから気をつけなよ。まあジャンさんがいるから大丈夫だと思うけど、この街で何かあったらあたいに相談しなよ?できる限りのことはするからさ」
「あっ、うん、ありがとう」
ようやく咲良たちの番が回ってきたが、御者台に乗っているミーナが門番に一声かけるとそのまま通してくれた。
「えっ?」
咲良はぽかんとしていた……
(ミーナの顔パス?並ぶ必要無かったんじゃあ………)
何はともあれ咲良たちはすんなりモンテラーゴに入れた。
北門を入った所でミーナやバルナバ商人と別れる事になった。
「じゃあまたな、命の礼は必ずするからな、何かあったらあたいに相談するんだよ、鍛冶屋のミーナだ。鉱山地区で聞けば店の場所は分かるから、絶対相談に来るんだよ」
「うっうん、ありがとう」
バルナバ商人に護衛依頼完了のサインをしてもらって、みんなと別れた。
* * * * *
冒険者ギルドと商人ギルドの場所はジャンが知っていた。
冒険者ギルドは北門前広場と南門前広場の二カ所にあるそうで、今は北門に居るので北門広場の冒険者ギルドに行く事にした。
冒険者ギルドの建物はボスコと雰囲気が似ていたが、街が大きいからか、更に豪華な木造の建物だった。
ジャン、ジャック、咲良の順でギルドに入った。
ジャンの事は有名なのでみんな知っているらしく、どよめきが起こった。
ジャックは格好良かったからか女性たちのささやく声が聞こえた。
咲良の事はどうもみんなジャンの子供だと思ったみたいで、誰も咲良に絡もうとはしなかった。
ジャンは手の空いてる受付嬢のカウンターに行く。
金髪で長い髪の綺麗め系の受付嬢は、落ち着いた様子で応対した。
「ジャン様、モンテラーゴの冒険者ギルドへようこそおいで下さいました。私はルチアと申します。今回はどういったご用件ですか?」
「あぁ、護衛依頼完了の報告だ」
ジャンはそう言いながら商人にサインしてもらった紙を出した。
「拝見いたします………はい確かに。では皆さんのギルドカードをお願いします」
金と青と白の3人のギルドカードをルチアに渡した。
「白?Fランクの方はFランクの依頼をこなした事にしかなりませんが、よろしいですか?」
「あぁ、それで頼む」
「分かりました」
ギルドカードがカウンターの上の黒い板の上に置かれると、ほんのり淡く光ってから、カードを返してくれた。
「はい、記録が終わりましたのでどうぞ」
「おう、ありがとな」
「ジャン様、少々お待ち頂けますか?」
「んっ?いいが何だ?」
「ジャン様が来られたら知らせるようにとギルド長に指示されていたのですが、伝えて来てよろしいでしょうか?」
「何かあったか…………まあいいぞ待ってる」
「はい、ありがとうございましす」
そう言って受付嬢が後ろのドアに消えていくと、ドタバタと言う音と共にドアから白髪のおっさんが現れた。
「ようジャン、ちょっと上の部屋まで来てくれるか?」
「なんだ、ここじゃあ話せない程の面倒事か?エドモンド」
白髪の角刈り、60を過ぎてもまだ引き締まった体つきの、エドモンドギルド長だ。
「さあな、上で話すわ」
そう言ってサッサと引っ込んでしまった。
「しょうがねえな、ちょっと話しをしてくるから、2人は好きにしてていいぞ」
「分かったわ、じゃあ商人ギルドに行ってるわね」
* * * * *
ジャンを冒険者ギルドに残して咲良とジャックは馬で商人ギルドに向かった。
商人ギルドは貴族街に1つと南門広場に1つで、北門広場には無い。
南門広場は街の反対側で遠すぎるので、咲良たちは街の中央にある貴族街の商人ギルドを目指した。
左に鉱山地区、右に市街地区を見ながら水路脇の大通りを馬に乗って進む咲良たち。
「鉱山地区って煙突から煙りが上がっててなんか活気があるわね」
「うん、この街で取れた鉱石を加工して、鍛冶屋が武器や防具を作ってる。この街のメイン産業だからね」
「へぇ~、じゃあ武器や防具はこの街で買うのが1番いいのかしら?」
「う~ん、1番となるとガンドルフ帝国のヴォルカーノと言う街かな。鍛冶職人はみんなその街に修行に行くんだ、鍛冶職人の聖地みたいな所だよ」
「そうなんだ、じゃあここじゃ買わない方がいいの?」
「そんな事ないよ。ヴォルカーノの次がこの街なんだ。いい鍛冶職人を見つけられば、ここの方がいいって人もいるよ」
「そっか、ミーナさんいい鍛冶屋だったらいいね、チャンスがあったら行ってみようかしら」
「そうだね。まぁ、だいぶ若いからあまり期待しない方がいいかもよ」
「それにしてもこの街、本当に広いわね。やっと貴族街の入口だわ。歩いてる人は大変ね、街中を往復する馬車があったら便利なのに」
「う~ん、貴族ならそうだけど、他の人たちは街中の移動に馬車は無理だね。街と街の間の乗り合い馬車ならあるけど、そこそこの値段がするからね」
話しながら歩いているうちに貴族街の入口に着いた。
「そういえば貴族街って誰でも入れる訳じゃないんだっけ?」
「あっ、お父さんが一緒なら入れたけど僕だけだと入れないか、忘れてた」
「ん~前に入った時は商人ギルドのダニエラさんがパスカードを用意してくれてたんだけど」
「僕ら2人だけだと入れないか。冒険者ギルドに戻ってお父さんと合流するか、南門前の商人ギルドまで行くかかな」
「商人ギルドに用事なんだし、入れないか衛兵に聞いてみましょう」
入口の衛兵に聞いてみたがやはり断られた。
日も暮れてきたので仕方なく今日は諦めて引き返そうとしたら、咲良の目の前を遮る様に豪華な馬車が止まった。
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