護衛依頼は気を使って大変だ!
第3章の始まりです。よろしくお願いします。
広々とした真っ直ぐ続く街道を、春の陽射しを浴びながらゆっくり進む2台の馬車。
アリーチェたちが護衛する商人の馬車だ。
ボスコの街を出て普通に行けば馬車なら2日で着くのだが、3日経っても、まだ目的の街に着いていなかった。
こわれものを多く仕入れたので、倍の日数かかってもいいのでゆっくり行ってほしいと、商人がお願いしてきたのだ。
日程が延びた分は支払ってくれるとの事だしこれも依頼なので馬車はゆっくりと進んでいるのだ。
アリーチェは10才になって身長も少し伸び、女の子らしくなっていた。
巫女装束も相まって、清楚で可憐な雰囲気が漂っていた。
商人のアリーチェを見る目がキラキラしていた。
本当にゆっくり行くのが商品の為だけなのかと、疑心暗鬼になるアリーチェ……
「いや~その席は小花咲良様の名前を彫って、専用席としようかな~、ひゃっひゃっひゃっ」
馬車の中に座っているアリーチェに対して、嬉しそうに御者台からずっと後ろを向いて話す商人。
(おじさん後ろじゃなく前を向いてくれないかな……)
アリーチェは変なおじさんに、じわじわと精神的ダメージを受けていた。
居心地が悪い状況を変えたい一心で、アリーチェは馬車の中からジャンに話しかけた。
「ジャン、前の方でモーウルフ6体から4人が戦いながら逃げてるみたいだわ。体力もだいぶ減っていて、危ないかもしれないわ」
「あぁ、確かに何か砂ぼこりが上がってるようだな………ちょっと様子を見て来ようと思うがいいかなバルナバさん?」
アリーチェは初めて雇い主である商人の名前を知った。
「ええ、通り道だしそれでお願いします」
「危険かもしれないからジャックは馬車を守りながらここで待っててくれ」
「分かったよお父さん」
「じゃあ、ちょっくら行ってくるぜ」
ジャンは馬に鞭を入れて魔物に襲われてる人を助けに向かった。
「それにしても小花咲良様は遠く離れた所の事までお分かりになるのですねぇ~……」
商人バルナバは益々キラキラしま目でアリーチェに話しかけてきた。
アリーチェは前方に魔物が居る事をつい言ってしまったが、バルナバへは隠さなければいけない事だったと反省した。
アリーチェは急いで言い訳を始めた。
「えっと、偶然と言うか………たまたまと言うか………ん~神様が教えてくれたと言うか……神様のおかげ?………神様に仕える巫女だから…………そう巫女だからです!」
よく分からない言い訳にたどり着くアリーチェだった。
しかしバルナバは深く頷いていた。
「ふむ、流石は小花咲良様です。巫女様だからなんですね」
アリーチェは自分のした事でジャンがいなくなり、更に商人の相手をしなければいけない状況になった事に気がついた。
(しまった、ジャンが行っちゃった……)
商人のバルナバは、ここぞとばかりにアリーチェに話しかけて来た。
「その……巫女様とは何でしょうか?」
ジャックは一人馬に乗って、前方の様子と回りを警戒していた。
(バルナバさんしつこいっ!ジャックも助けてくれないし……)
「小花咲良様?巫女様とは初めて聞きますが何でしょうか?」
「あっ、はい、巫女とはですね、神様にお仕えする者です」
「それは教会の司祭様と似ていますね、小花咲良様は司祭様って事ですかね」
「え~司祭では無くて……教会とは宗教が違くて……巫女は女の人だけで……」
どう説明するか悩むアリーチェ。
「司祭様とは違う、女の人だけの職業って事ですか?」
「ん~まぁ職業で間違ってはいないか……」
「職業なんですね、つまり巫女の小花咲良様とお呼びするのが正しいと言う事ですね。なんか美しい響きですね~、巫女様もいいし、咲良様もいい、ん~悩むなぁ~」
「…………呼び方はおまかせします」
アリーチェは疲れきっていた。
* * * * *
襲われている現場にジャンが近づくと、モーウルフに囲まれて傷だらけの4人が見えてきた。
逃げてきた4人はもう走れないのだろう、背中合わせになりながら、モーウルフと対峙していた。
赤いショートカットで、リーダーらしきドワーフの女性が言う。
「コイツら街道に出て来ても全然諦めないな」
他の背中合わせの獣人2人と人族1人の男がそれぞれ叫ぶ。
「姐御!逃げて下さい!」
「ここは俺たちが引き止めてみせます!」
「姐御だけでも!」
「気持ちはありがたいがあたいがお前らを置いていく訳ないだろ。みんな傷だらけだな………今まであたいのわがままに付き合ってくれてありがとな」
「「「姐御!!」」」
もはやこれまでかと、諦めかけている所に、馬に乗ったジャンが近づいてきた。
ジャンは傷だらけで憔悴しきった4人に声をかける。
「おーい!大丈夫か~!助けが必要だろ~?」
姐御と呼ばれていたドワーフの女が答えた。
「あんた一人かじゃ犠牲が増えるだけだ!気持ちはありがたいが相手が多すぎる、逃げてくれ!」
「俺一人で大丈夫だぞ?助けなくていいのか?」
獣人の男の1人が叫んだ。
「姐御だけでも連れて逃げてくれないかっ!」
「おっ、助けていいんだな!」
もう一人の獣人が叫ぶ。
「姐御だけでも連れてってくれっ!」
「分かった!姐御だけとかじゃ無くて全員助けるからそのまま待ってな!」
馬を降りて、剣も構えずに無造作にモーウルフの群れに走って近づくジャン。
姐御が叫ぶ。
「無茶だっ!危ないぞっ!」
2体のモーウルフが同時にジャンに飛びかかった。
ジャンは腰をかがめて背中の大剣に手をかけた。
モーウルフ2体が間合いに入った瞬間に、ジャンが大剣を横一閃する!
シュババッッ!
ドサドサッ!
飛びかかってきたモーウルフ2体が真っ二つになって地面に落ちた。
「「「「へっ!!」」」」
傷だらけの4人は驚きのあまり固まっていた。
そして残りのモーウルフがまとめて飛びかかってきたが、ジャンが1歩踏み出したかと思うと、次の瞬間には残りの4体が真っ二つになっていた。
全てのモーウルフは、一太刀で両断されていた。
ひと息つきながら大剣を背中に戻すジャンは、ボーッと見ている4人に話しかけた。
「大丈夫だったか?倒しちまって良かったんだよな?…………あれっダメだったのか?」
「「「「つ……強ぇ!!」」」」
「あんた強えんだな……助けてもらってあんがとな……いや、ありがとうです、あたいはモンテラーゴで鍛冶屋をやっているミーナだ………です」
他のメンバーも名乗った。
「イチートです」
「ニートです」
「サンコンです」
「俺はジャンだ。普段の言葉遣いでいいぞ、よろしくな」
ミーナが笑顔になる。
「えっジャンってもしかしてAランクの剛腕の?」
「ははっ、まぁそうも呼ばれてるな」
「「「「まじかっ!ありがとうございました!」」」」
その後、みんなと握手をしてから、商人の馬車と合流したジャンとミーナたち4人。
バルナバはミーナと知り合いだったようで、気軽に挨拶を交わした。
「お~、ミーナじゃないか」
「なんだ、バルナバ爺さんだったのか。護衛のジャンさんに助けてもらったよ、あんがとな爺さん」
ミーナに会わせて3人のメンバーも頭を下げた。
「いやいや無事でなによりだよ。助けが間に合ったのは小花咲良様のお陰なんだぞ」
ミーナはよく分からなかった。
「このはなさくら……様??」
ジャンがみんなを紹介した。
「あぁ、紹介がまだだったな、そっちの馬に1人で乗ってるのが息子のジャック、そして馬車の中に乗ってるのが………」
馬車の中から御者台に顔を出して挨拶をするアリーチェ。
「小花咲良です。よろしくお願いします」
ジャンとジャックは、アリーチェが小花咲良と名乗った事で、今後の呼び名を悩んだ。
見た事も無い服を着て馬車の中から現れた、可愛らしい少女に見とれてしまうミーナたち。
「あっ、あたいはミーナ、このPTのリーダーだ」
「俺はイチート」
「ニッ……ニート」
「サンコンです」
「はい、ミーナさんイチートさんニニートさんサンコンさん、無事で良かったです」
慌ててニートが言い直す。
「あっ、俺ニート……ニニートじゃなくてニート………です」
「あっごめんなさい、ニートさん、よろしくお願いしますね」
顔を真っ赤にしながら頷くニートだった。
「皆さんだいぶお怪我をなさってる様なので、少しだけ回復魔法をかけておきますね」
アリーチェがミーナたちに手をかざして、魔法名だけを呟く。
「『ヒール』!」
4人を淡い光りが包み込んでは消えていった。
「「「「おおおっ!」」」」
傷が治って体力が回復していく事に驚いてミーナが呟いた。
「詠唱無しで4人いっぺんに回復魔法………教会の偉い人なのか?」
アリーチェはしまったと思った、1人ずつなら回復魔法をやっても大丈夫だと思っていたが、普段から詠唱をしないので普通は詠唱が必要な事を忘れていた。
「あっ、詠唱は前もってしておきましたから………」
しかしいい訳に困っているアリーチェを助けたのは、小花咲良に心酔しているバルナバ商人だった。
バルナバはアリーチェが詠唱もなく回復魔法を使った事に全く驚く事もなく、何故か説明を始めた。
「はははっ、教会の人では無いが神様に仕える巫女様だから何でも出来るんだよ」
「「「「巫女様だから??」」」」
バルナバは困惑する4人に拳を握り締めて力説した。
「あぁ、巫女様だからだっ!」
「「「「………なるほど」」」」
全く説明になってないが、バルナバの勢いに押されてミーナたちは何故か納得した。
ジャンとジャックも回復魔法をアリーチェが使うのは初めて見たので驚いていたが、色々と隠すのが面倒になってきたんだろうと納得していた。
ホッと胸をなで下ろしながらも、バルナバに助けられた形になって、なんかモヤモヤするアリーチェだった。
* * * * *
その後、全員一緒にモンテラーゴに向かった。
御者台にミーナとバルナバが乗り、ミーナの仲間はアリーチェと荷台に乗って、みんなで話しながら馬車は進んだ。
「アタイもPTメンバーも全員がLV20でDランクになったから、試しに魔物のランクを上げて、Dランクの魔物を狩りに来たのさ」
イチート、ニート、サンコンが当時の事を話し出す。
「いやしかし姐御、モーウルフが群れでいるとは思いませんでしたよね」
「そりゃあびっくりでしたぜ、1体なんざ楽勝だと思ってたら、2体・3体と増えて、終いには6体でしたからね」
「戦い始めは6体だろうが、気合いで勝てると思ってたんですがね」
「あぁ、アタイの気合いが足りなかったんだろうな、徐々にヤバくなって流石のあたいも気合いの足りない自分にムカついたぜ。しかしそこにすげ~気合いの入ったジャンさん…………ジャンの兄貴が助けにきてくれたって訳さ。いや~惚れちまったね!大剣を気合い一閃だもんなっ!」
少し照れた感じのジャン。
「あ~褒めてくれてありがとな、君たちも必ず強くなれるさ。気合いも大事だが相手の事をもっと知って戦いの連携を考えた方がいいかもな。そうすればモーウルフにも勝てると思うぞ」
「「「「あざ~す!ジャンの兄貴!」」」」
ミーナたち4人はビシッと敬礼した。
馬車がゆっくりと進む中、話し好きなミーナの話しははまだまだ続いた。
「ジャンさんとジャックさんとさくらさん3人のPTって事?でもリーダーのジャンさんとのPTだと、レベル差があり過ぎて経験値が入らなく無い?」
「あぁ、俺は付き添いみたいなもので一緒にいるがPTを組んでる訳じゃないから大丈夫なんだ。ジャックとアリー……じゃなくさくらのPTだな、それ俺たちのリーダーはさくらだよな?」
ジャックもそう思っていたようだ。
「僕もリーダーは…………さくらだと思ってるよ…………呼び方はさくらの方がいいんだよね?」
呼び名を確認するジャックに少し苦笑いのアリーチェ。
「うん、小花咲良として旅をして行くから咲良…で………あとリーダーはどう見てもジャンじゃない?」
「僕はさくらを助ける為にいるから、リーダーはさくらかな」
「何をするか決めるのはお嬢ちゃんだし、俺もリーダーはお嬢ちゃんだと思うぞ」
戸惑う咲良。
「ん~まぁ何かあればみんなに相談するし、まあそう言う事にしておくわ」
「ほぇ~、ジャンの兄貴が一緒に居てリーダーじゃ無いなんて……」
ミーナは呆気にとられていた。
みんなを乗せた馬車は、ゆっくり街道を進んでいった。
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