アリーチェ10才になる!
時は流れて……
中央広場での神楽から1年半後。
アリーチェは2年生の終わりを迎えようとしていた。
この世界の常識はだいたい学び終わった。
魔法科は4年制だから後2年残ってるが、アリーチェにとって魔法科で学ぶ事は特に無く、学校を中退する事にした。
魔法科を卒業すれば、貴族のランクはともかく貴族の称号を得られるのだが、アリーチェにとっては厄介な物でしかなかったので卒業する必要は無かった。
10才になって正式に冒険者登録が出来れば、世界各国に行く事が簡単になる。
やっと本格的に姉を捜しに行く事が出来るのだ。
アリーチェにとってこの1年半、みんなと楽しい思い出もあった。
夏に近くの湖で1泊しての課外授業。
魔物も狩り、夜営もする。
交代で夜の見張りの筈が、みんな眠らずにテントの中で楽しく過ごした。
みんなで作った夕食は焦げていたが美味しかった。
魔物狩りはアリーチェが指示を出さなくてもみんなの動きが良く、余裕を持って勝てた。
アリーチェの指導のもと、同級生はみんな年齢より1つ上のLV11になれた。
卒業の最低条件がLV10であり、みんな2年生でそれを超えたのだ……
アリーチェはこの2年間の勉強で常識人になったつもりだった。
同級生たちは自分たちだけレベルが上がって、アリーチェのレベルアップが出来ていない事を気にしていた。
みんなに守ってもらえば荷物持ちで大丈夫だからとか、魔物と戦わない仕事に就くからとか、アリーチェはみんなの説得に苦労した。
* * * * *
森の泉孤児院は、串焼き屋が大繁盛で孤児院が綺麗になった。
お店も屋台では無く、門の横に小さいながらも店舗が建った。
マウロの森の泉PTもレベルが14に上がり、立派なEランク冒険者になった。
ウッピーだけではなく、ゴブリンなどのEランクの魔物も狩れる様になって、串焼き屋の肉もレベルアップしていった。
たまにアリーチェが高ランクの魔物の肉を卸すのも目玉になっていた。
ジャンが一緒にいるから、アリーチェが倒したなんて思われないのも都合が良かった。
そう、ジャンとジャックはずっとボスコの街にアリーチェと共に居てくれたのだ。
たまに指名依頼はあるものの、終わるとすぐに戻ってきてくれた。
* * * * *
ラダック村特産品店も繁盛していた。
店の裏の家も借りられるようになり、特産品の製作所も作った。
製作所では、ローラさんと巫女装束の製作も始めた。
貴族や街の人たちからの注文はかなりの数になったが、巫女装束の製作は難しく1着作るのに何日もかかるので、1年半経った今でも注文は数年先まで埋まっている。
* * * * *
中央広場で最初の神楽から1年経った夏の終わりに、中央広場でもう1度神楽を舞った。
観客席には巫女装束を着た女性が結構いた。
街中でも巫女装束を見かけるようになった。
巫女装束が広まれば、絶対に姉が見つけてくれる、アリーチェはそう願った。
* * * * *
ジャンは何度か王都に呼ばれていた。
左腕の事は……まぁ何とか誤魔化せていると言っているが、きっと相手はAランク冒険者だから変に逆らわないのだろう。
ジャックはアリーチェの護衛の為に、ずっとボスコに居てくれている。
何処かのPTに入ったり、ソロだったりで、たまにギルドの依頼をこなして経験を積んでいた。
シド師匠の元、アリーチェとジャックは一緒に剣の修行をした。
シドに何故剣が上手いのか聞いてみたら、数百年前に剣聖に召喚されて、よく修行の相手をしていたからだそうだ。
デスサイズなら勝てるのにずっと剣でしか戦ってくれなかったんですよ……とぼやいていた。
シドって凄かったのだ。
シドの指導で剣は上達。
ジャックの希望で盾の使い方も教わっていた。
アリーチェを守るのが最優先事項のようだ。
剣のスキルも少しずつ上がったので、アリーチェとジャックは、何度か経験値稼ぎに行った。
なるべく精霊の助けを借りずに2人の力で戦った。
その甲斐あって2人の連携は良くなり、Cランク高級牛肉のゼブラモーウルフにもぎりぎりではあるが勝てるようになった。
現在のレベルはジャックがLV30、アリーチェがLV35だ。
ジャックのレベルアップの為とは言え、アリーチェはまだ10才なので、LV35は上げすぎだった……
(10才でLV35はまずいわ…………んっ?バレたらまずいのは前までのレベルでも一緒か、なら大丈夫ね)
アリーチェは楽観主義者だった。
* * * * *
アリーチェは10才で正式な冒険者登録が出来るようになったら姉を探す旅に出ようと思っていた。
学校である程度の一般常識も学んだし、魔法については精霊たちが教えてくれるから卒業まで学校に通う必要がないのだ。
アリーチェは学校を辞める事をステラ校長に話しに来ていた。
「学校を辞めて巫女として世界を廻ります」
「初級魔法だけしか使えないアリーチェさんに後2年間の魔法科の授業は必要ないのは確かね。そう………やりたい事があるなら学校を諦めると言う決意は変わらなそうね…………分かったわ。ところで巫女と言う職業は初めて聞くけど何をする職業なの?」
「はい、神に仕える職業と言いますか、聖職者の助手みたいな感じです。神楽もその一つです」
「聖職者の助手?………そう、目標があるのは良いことだわ、頑張ってね。いつでも戻って来ていいからね、アリーチェさんを生徒としても学校の先生としても歓迎するからね」
「はい、色々とお世話になりありがとうございました」
ペコリとお辞儀をするアリーチェ。
* * * * *
後日、ステラ先生が教室のみんなの前でアリーチェが学校を辞める事を話した。
ステラと一緒に教室の前に立つアリーチェを同級生たちが見つめていた。
「………と言う訳でアリーチェさんは違う道に進む事になりました」
モジモジするアリーチェ。
「えっと……皆さんと一緒に過ごした2年間は、とても楽しく私の宝物になりました。みんなとお友だちになれて良かったです。アリーチェはこれからも頑張るからみんなも頑張って下さい。ありがとうございました」
すすり泣く音の中、みんなが声をかけた。
「ありがとう…ングッ」
「頑張ってね…ズズッ」
「また何処かで会おうね…ヒック」
「いつでも遊びに来ていいんだからね…グズッ」
ステラ校長がアリーチェの横に並ぶ。
「え~っと、1つ発表があります。アリーチェさんですが、皆さんへの教育の功績により、魔法科教師の全会一致で卒業が認められました。よってこれより卒業証書を授与致します」
「「「うわぁ~~~!」」」
パチパチパチパチ。
「えっ?卒業?」
アリーチェは驚いていた。
「ええ、初級魔法でも魔法が使えますから、卒業ですよ」
ステラ校長は、隠し持っていた卒業証書を広げた。
「卒業証書、アリーチェ殿!貴方は入学以来、日々精進と努力を積み重ね学問や魔法を学び、武術に励み、課外授業においては生徒全員の教育の向上に多大なる貢献をされました。よってここに魔法科の修了を証します。ボスコ学校校長、ステラ・フランチェスカ。おめでとうアリーチェさん」
ステラ校長は卒業証書をアリーチェに差し出す。
アリーチェはぽかんとしていたが、先生たちの気持ちを受け取る事にした。
「ありがとうございます」
アリーチェが卒業証書を受け取ると、教室に大歓声と拍手が沸き起こった。
ワァ~~ッ パチパチパチ
「おめでと~」
「やったね~」
「アリーチェ~」
「ありがとうね~」
「頑張ってね~」
「これからも友だちだからね~」
同級生たちもアリーチェの卒業を喜んでくれた。
2年間だったが、思い出に残る学生生活だった。
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