小花咲良とアリーチェ
夏休みも終わって学校が始まった。
今後の登下校の護衛をジャックが申し出てくれた。
普段から巫女装束を着ると決めたアリーチェと、片手剣と盾を装備したジャックが一緒に歩いて登校している。
「いつも精霊だったから、周りに強めの魔力の人が居ないか気をつけなくちゃいけなかったのよね。ありがとうねジャック」
「ううん、いいよ。僕に出来る事なら何でも言ってね、少しでもアリーチェの役に立ちたいんだ。これからの街中の護衛は出来る限りやらせてもらうから任せて」
ジャックは気合い十分だ。
「えっうん、ありがとう、無理しなくて大丈夫だから、用事があったら言ってね」
アリーチェは少し気恥ずかしそうだった。
校門前でジャックと別れて、久しぶりに魔法科校内の並木道をゆっくりと歩いた。
(綺麗ね、青々と茂ってるけど紅葉するともっと素敵なんだけどね)
「おはようアリーチェ」
後から聞き覚えのある声がした。
「おはようマルティーナ」
「昨日も素晴らしかったわ、さ・く・ら・さんっ!父も感激してたわ、今着ている服を私にも着せたいみたいなの……ステキな服ね」
「ありがとう。商人ギルドのダニエラさんが窓口になってるの、今はまだそんなに数が無いと思うから、会ったらアリーチェからも言っておくわね」
「ありがとうアリーチェ」
2人は仲良さそうに並木道を歩いて登校した。
教室に入るとみんなが一斉に巫女装束のアリーチェを見た。
「「「まぁあ~~っ!!」」」
「「「おぉお~~っ!!」」」
全員昨日の神楽を観に行っていたから大歓声が上がった。
「うっ……おはよう」
アリーチェはたじろぎながらも挨拶をした。
「「「おはようアリーチェ」」」
みんなの声が揃った。
アリーチェは尻込みしつつも、みんなの間を抜けて席に座った。
学校での先生や生徒たちの反応はみんな大好評で、アリーチェは一日中気恥ずかしい思いをした。
* * * * *
商人ギルドにいるダニエラは、予想通り朝らから大忙しだった。
朝出勤したら、すでに貴族の執事たちが並んでダニエラを待っていたのだ。
みんな巫女装束の問い合わせと注文だった。
まだローラと話しをしてないから、販売できるかすら分かってないのだ。
とりあえず販売するかは未定と伝えて引き取ってもらった。
ダニエラは一日中ずっと貴族関係の対応で忙しかった。
* * * * *
アリーチェの学校帰り、校門前にはジャックが待っていてくれた。
二人で色々と話しながら帰っていると、周りの視線が気になった。
「さくらちゃんじゃない?」
「可愛いわよね~」
「ジャックとならお似合いかもね」
「あいつ俺のさくらちゃんに………」
色々な声が聞こえてきた。
小花咲良として神楽を舞ってみんなに知られる様になってからは、親しかった人や同級生からは今まで通りアリーチェと呼ばれていたが、それ以外の人たちからはさくらちゃんと呼ばれるようになっていた。
「やっぱりみんなアリーチェを見てるね」
「みんなが喜んでくれてるのなら嬉しいわ」
「うん、みんな感動してたから、アリーチェを見かけたら嬉しいんだろうね」
「そっか、じゃあ街中を歩いてる時に変な顔は出来ないね」
「ははっ、アリーチェはどんな表情でも可愛いから大丈夫だよ」
「えっ?」
「あっ!いや……えっと……そのままでいいんだよ」
「えっ?えっ?」
「あっアパートに着いたから……また明日!」
ジャックは赤くなりながら走り去っていった。
* * * * *
夕方のボスコの西門には、ラダック村からルカや出稼ぎの男たちがやってきていた。
久しぶりにボスコのアパートに帰ってきたルカとシド。
「ただいまアリーチェ、元気だったかい?」
「あ~っ!ルカパパにシド。お帰りなさい」
アリーチェは机で編み物をしていたのを中断して、ルカに抱きついた。
「うんアリーチェは元気だよ、街のみんなが優しいし、知り合いも増えたから大丈夫だったよ」
「お久しぶりです。姫様」
相変わらず執事の格好できちんとお辞儀をするシド。
「あ~、久しぶりと言っても、ワイバーンの串焼きをラダック村で一緒に食べたから、そんなでも無いけど。ありがとうねシド」
「いえ、姫様のお側に戻れて嬉しゅう御座います」
「ふふっ、精霊界でゆっくり休んでね」
アリーチェはシドに手を振りながら、召喚を解除した。
「知り合いが増えたって誰?パパの知ってる人かな?」
「たぶん知ってるんじゃないかな、ジャン・ヴァレンティーノていう人」
「えっ?あの有名な剛腕のジャンと知り合ったのかい?」
「えっと、ジャンがワイバーンの群れに襲われている所を助けたのがきっかけかな」
「ええっ!Aランク冒険者を助けた?それもワイバーンの群れから………」
「うん、ワイバーンの串焼き食べたでしょ?あれがそうよ。その事を恩に感じて色々と手伝ってくれるの。息子のジャックと一緒に神楽の演奏もしてくれるからルカパパはもう大丈夫よ」
「ジャンの息子だと?………演奏はパパの方がやれると思うぞ?」
「ううん、演奏はもう大丈夫だから、エリスママを大切にしてね」
「そう…………分かった」
ルカは少し寂しそうだった。
ボスコの街で小花咲良は、ジャンと並んで最も有名で人気のある人物の一人となった。
アリーチェはこの名前が姉の耳に届いて欲しいと願っていた。
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