お詫びにジャックのレベル上げ!☆2
イフリートとズーティの殴り合いはまだ続いていた。
「リートが押されているみたいだけど、嬉しそうなのはなんでかしら……」
側にいたルナが答える。
「はい、相手の全力を受け止めるのが男だと言っていた事がありますので、殴られるのが好きなんだと言う事ではないでしょうか」
「ふぅ~ん…………勝つ気はあるのかしら?」
「はい、負けるつもりは無いと思いますのでイフリートの力不足だと思います。対象の魔力濃度を濃くして身体能力を2倍に上げる『フィジカル』魔法を私がかけましたが少し押されていますので、4倍にする上級魔法の『フィジカルセカンド』なら勝てるでしょう。イフリートへの負担とアリーチェ様の魔力消費が少々増えますが、かけてみますか?」
「ん~じゃあ練習がてらアリーチェがかけてみるわ」
「はいっ!どうせなら、上級の『フィジカルセカンド』や『フィジカルサード』は飛ばして、神級の『フィジカルゼロ』はいかがでしょうか?私も見た事はありませんが、すぐに決着がつくのは間違いありません」
「神級の『フィジカルゼロ』?今のアリーチェで大丈夫?それにそんなに強化しちゃってリートは平気なの?」
「大丈夫です!イフリートにもの凄い負荷がかかり正直何が起るか分かりませんが、神級魔法をかけられるのでしたらイフリートは本望だと思います…………」
「そう……………戦いが早く済むならやってみようかしら。神級だから詠唱してみるわね」
そう言ってアリーチェは不安を余所に、目を閉じて集中し始めた。
側でアリーチェとルナの会話を聞いていたジャンとジャックには、もはや理解しようとする気力はなかった。
「お嬢ちゃんが神級魔法を使うそうだぞ……」
「そのようですね…………あ~~なんと空は青く雪は白いのでしょう。良い天気ですねお父さん」
「あぁ…………神様は偉大だな」
訳の分からない2人の事など放っておいて、アリーチェは詠唱を始めた。
「偉大なる、アスクレーピオス神に賜りし、冥府の影法師達、我は神と共にあり、其方達と共にある。我意思に準じて、精霊と共にその力を今ここに顕現せよ、『フィジカルゼロ』!」
突然、この周り一帯の魔素が消え、全てイフリートに集中した。
アリーチェは魔法により身体から魔力がごっそり減る感覚を味わった。
「くっ、ふわちゃんの時程じゃ無いけど、かなりの魔力が減ったわ」
「ウオオォオォオォ~ッ!」
突然イフリートが雄叫びを上げた。
イフリートの身体は二回り程大きく膨れ上がり、ズーティより大きくなっていった。
イフリートから感じられる魔力濃度がとても濃くなり、Sランクの魔物のような魔力になっていた。
イフリートは自分の変化にとても驚いていた。
「こっこれは、この身体は……力が湧き出るぞ~~!!はあ~っはっはっはっ!!ウオォオォォッ!」
全身に力をみなぎらせ、歓喜に震えているイフリート。
突然、魔力も身体も大きくなったイフリートに、怯えるズーティ。
身の危険を感じたズーティは、逃げる隙をつくる為に全力の一撃を放った。
「フンガアアァァ~~ッ!」
高々とジャンプしたズーティは、両腕を組んで力任せにイフリートの頭に振り下ろす。
イフリートは立ったままズーティの攻撃の全てを受け止めた。
ドガァーンッバキバキッ!
イフリートは立った姿勢のままだったが、攻撃した筈のズーティの両腕は折れ曲がり、イフリートの前で苦しんでいた。
イフリートは真っ直ぐズーティを見下ろす。
「勝てぬと分かっていて向かってくるその勇気っ!素晴らしかったぞっ!はあぁぁ~っ!」
イフリートの鋼のような拳はズーティの胸を貫いた。
その瞬間にアリーチェとジャックは、また数回レベルアップするのを感じていた。
「あっ、またレベルが上がった……」
ジャックはレベルアップの凄さや嬉しさに鈍感になっていった。
アリーチェは『サーチ』でレベルを確認した。
「アリーチェはLV26でジャックはLV24になってるわね」
「いや~お嬢ちゃんは魔道具を使わずにレベルも分かるのか。そして少し戦っただけでこんだけ上がるって……あり得んな。そもそも2ランク上の魔物なんてPTでも全滅するから絶対に戦わない相手なんだがな。ズーティは実質3ランク上だったし………そんなのに勝っちまうんだな」
ジャンもジャックも、アリーチェの非常識さを理解しようとはしなくなっていた、ただ心を無にして受け入れるだけだった。
『フィジカルゼロ』の魔法が解けたイフリートは、アリーチェよりも小さな子供の背丈になっていた。
アリーチェの足にしがみついて懇願する子供のイフリート。
「アリーチェ!アリーチェ様っ!さっきのをもう一回頼みます!あれでドラゴンと戦ってみたいっ!おねがいしますっ!」
アリーチェは、足にしがみつくイフリートをペイッと足蹴にして、さっさとボスコへ戻ろうとする。
ペイッ!
コテンと転がるイフリート
すかさず起き上がってアリーチェの足にしがみつくイフリート。
「おでがいじまずぅ~~、いい子にずるがら~~、あり~じぇざぁまぁ~」
半泣きで駄々をこねるイフリート。
アリーチェは容赦なくイフリートをペイッと足蹴にする。
ペイッ!
コテンと転がるイフリート。
すぐに起き上がって、またアリーチェの足にしがみつくイフリート。
がしっ!
「おでがい~~!」
ペイッ! コテン!
がしっ!
ペイッ! コテン!
がしっ!
アリーチェはボソッと呟いた。
「…………召喚解除」
「あっ……」
足にしがみつく子供の姿のイフリートは、光りの粒子になって消えていった。
* * * * *
ボスコに帰る為の魔法陣に向かいながら、アリーチェはジャックに聞いてみた。
「タッくんは大剣以外の武器は使わないの?」
「学校に行ってた時は片手剣も使ったけど、お父さんが大剣使いだから、憧れもあるし色々と教えてもらえるから、今は大剣しか使ってないかな」
「そう……見ていて思ったけど、腕力がある訳じゃ無いから大剣は向いてないと思うの。片手剣の方がいいと思うわ」
「そうかぁ、確かに使いこなせてはいないのは感じていたけど、いつかはお父さんのようになろうと無理して大剣を使ってたかもしれない。今の戦いも恥ずかしながらアリーチェの助けが無かったら攻撃は当たらなかったし、僕は邪魔者だった」
「あっ!邪魔者って事じゃないのよ?今後も格上と戦うだろうし、タッくんの身体はジャンのような剛腕タイプじゃないから、もう少し速さがあった方がいいと思うの」
「うん、分かった。ボスコへ帰ったら早速片手剣と盾を揃えて、戦闘スタイルを変えて練習してみるよ。アドバイスありがとうアリーチェ」
「ううん、きっとその方がいいと思うわ。片手剣と盾はアリーチェが作ってあげようか?」
「「えっ?作る?」」
ジャックと一緒にジャンも驚いてしまった。
アリーチェに対しては、心を無にして受け入れるつもりだったのに、油断してしまっていた。
「えっ?アリーチェが僕の装備を買ってくれるって事?お金はあるから大丈夫だよ?」
「ううん違うの、アリーチェが魔法で作ってあげようかなと思って。鍛冶屋さんよりは劣ると思うけど、高ランクじゃなければそこそこ使えると思うわ、この剣もゴーレムの素材を混ぜてアリーチェが作ったのよ」
「あの堅いゴーレムの?聞いた事ないな………イェティ戦で使ってたやつだよね。斬れ味が良かったね、店に置いてあれば高値で取引されると思うよ」
アリーチェから受け取って、しげしげと剣を見つめるジャック。
「俺にもちと見せてくれるか?」
ジャンは剣を受け取って確認する。
(堅い筋肉のイェティを一太刀だったよな、お嬢ちゃんの腕もなかなか良かったが、この剣の斬れ味も中々だな)
「鉄の剣かと思ってたが、ゴーレムの剣か」
「武器屋で安く買った鉄の剣にゴーレム素材を混ぜて魔法で作り直したの。ゴーレム素材は堅くて重かったから、刀身を細くしたの。ゴーレムも斬れるようになったわ」
「鉄の剣を作り直してゴーレムも斬れる剣にか……確か鍛冶屋が使う上級魔法だよな、精霊と契約を結んでる鍛冶職人にしか出来ない仕事なんだが、そっか、お嬢ちゃんは精霊と友だちだもんな。しかし何でもかんでもお嬢ちゃんに甘える訳にはいかないから、気持ちだけ受け取っておくよ、ありがとな」
「そう、気が変わったらいつでも言ってね」
ジャックはレベルが24まで上がった事も、戦闘で魔法を使えた事も嬉しいこだが、とても複雑な気持ちだった。
「レベルアップはしたけど、剣の腕を磨かないとレベルにあった魔物には勝てない。アリーチェを守る為に盾術も必要だし魔法の使い方もいろいろ試さないと」
ジャックはやるべき事が増えて、より自分を鍛え直そうと考えていた。
* * * * *
『テレポート』であっという間にボスコのアパートに戻ったアリーチェたちは、早速、演奏の練習を始めていた。
「ジャン、そこはトン トン トンじゃ無くて、トン トン トトンでお願い」
「おっおう……」
「タッくん、ピ~ ピ~ ピ~じゃ無くて、ピィ~~ ヒャラ~~ ヒャララ~~って伸ばす感じでね」
「うん、分かった、伸ばす感じね……」
分かってる様で分かってない二人だった。
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