タッくんは闇属性であってるわよ!
ワイバーンの群れの討伐も成され、お肉祭りも終わって落ち着きを取り戻したボスコの街。
アリーチェは学校で心配をかけた先生や生徒にお礼も兼ねて元気な姿を見せて回った。
学校が終わると今度は、商人ギルド、冒険者ギルド、森の泉孤児院などお世話になったみんなにお礼を言って回った。
* * * * *
アバートに戻ってすぐにベッドに倒れ込むアリーチェ。
「あ~~っ、もう無理~っ!もう歩けないわ、2度と倒れないようにしないと」
アリーチェがそのままウトウトと寝ようとすると、玄関のドアをノックする音が聞こえた。
部屋の中には精霊たちが思い思いに過ごしている。
精霊たちを隠す事無くアリーチェはその相手に声をかけた。
「開いてるから入っていいわよ~!」
ドアが開いて入って来る2人。
「お邪魔しま~す」
「邪魔するぜ~ってやっぱりかっ、誰が入って来るか分からねえんだから精霊を隠せよっ!鍵も閉めとけよっ!」
アリーチェはベッドに横になったままだ。
「あ~大丈夫よっ、ジャンたちだって分かってたから、今もこのアパートを1周回ってたでしょ、何で?」
「んっ?それも分かるのか……お嬢ちゃんのとこに来るのに、表札無いし入口が幾つもあるから分からなかったからな、精霊たちの魔力の所に来てみたら当たりだったんだ。共同のアバートかぁ………精霊バレるんじゃないか?」
「魔力の高い人たちさえ気をつければ今のところ大丈夫かな。魔力の低い人たちは精霊たちを見ても人だと思うみたいだし」
「へえ~、それで執事とか普通の服なのか、恐れ入ったぜ」
仕方なくベッドから起き上がって、疲れて重い身体を引きずってリビングの椅子に座るアリーチェ、
「それで何か用なの?」
「あぁ、これだ」
そう言ってジャンとジャックは、リュックから大きめの白い魔石1つと中くらいの緑の魔石6つをテーブルに出した。
「ワイバーンの魔石だ。白いのがリーダーのだ。それと牙とか鱗とか素材も全部ギルドに預かってもらっている」
大人が片手で持つのがぎりぎりくらいの大きさの、白い魔石を持ちながらジャンは続けた。
「この白い魔石もそうだが、リーダーだった白いワイバーンの素材は取っておいた方がいいぞ、とても珍しいし今後役に立つだろうしな」
「んっ?まるでアリーチェの物みたいな言い方ね」
「お嬢ちゃんが倒したんだからお嬢ちゃんのもんだ。命を助けてもらったうえに、倒してもいない素材を俺が貰う訳にはいかないんでな。経験値をもらっちまってレベルまで上げてもらったんだ、申し訳なくてな」
「んっ?経験値ね、最初はジャンが戦ってたからかしら。それでアリーチェに経験値は入らなかったんだね」
「えっ?LV50の俺が上がる程だ、お嬢ちゃんも結構な経験値が入ったんじゃないか?」
「経験値は入らなかったわね。アリーチェがLV18でジャンがLV50だったなら当然ね」
経験値は一緒に戦ったPT内で、レベルの高い者に多く入り、20以上低い者には全く入らないのだ。
「なにっ?学校行ってるのにすでにLV18なのも凄いが、あれだけ強くてLV18?末恐ろしいな」
「強いのは精霊たちだから」
「いやいや、多くの精霊と契約が出来て、召喚出来るだけの魔力もあるって事だ。お嬢ちゃんの強さだよ」
アリーチェのレベルを聞いて、ジャックはなんだか嬉しそうだ。
「そっか~アリーチェはLV18なんだね、僕はLV16だからPTも組めるね、14才で年の割に強いと自信を持ってたけど、アリーチェと比べたらまだまだだ。もっと強くならなきゃ守るなんて言えないや」
「アリーチェはレベルが高すぎて困ってるのよ、学校の授業で生徒たちとPTを組む訳にいかないからね」
やっぱり嬉しそうなジャック。
「そっか、PT組むと他のみんなに経験値が入らないもんね、でも今なら僕と組むのは丁度いいね」
「みんなが原因を調べ始めたら色々バレるもんな。でもどう考えても隠すの無理じゃね?」
「ところがよっ!偶然なんだけど儀式の時の司祭様の勘違いで、アリーチェは魔力はあるけど、属性の才能が無い事になってるから、PTの荷物持ちって事でやっていけてるのよ!司祭様には感謝してるわ」
「よく分からんが色々苦労してるんだな。是が非でも素材は全部受け取ってもらわないとな」
「素材をもらっても困るのよね、アリーチェがギルドに持ち込んで売るわけにもいかないし」
「そりゃそうか…………じゃあ俺が売って金だけ渡せばいいか?」
「えっ?売ってくれるの?いいこと言うじゃない!今までの余ってる素材も売ってもらおうかしら」
「おうっいいぞ、お嬢ちゃんの役に立つなら何でもやるぞ。今までの素材ってのもあるのか?」
「うん、ベルトコンベアーとかゴーレムとかの素材があるわ。アイテムボックスで放っておけばいいんだけど、ジャンが売ってくれたら気持ち的にスッキリするわね」
「ほう、ゴーレム素材もあるのか、ありゃあ倒すのに武器を傷めるし、重くて運ぶのが大変だからあまり持ち込まれないんだよな。意外と高く買い取ってくれるぞ。俺も収納袋を持っているが、ゴーレムは入りきらないな。でそのアイテムボックスとやらはどこに置いてあるんだ?荷馬車借りて取りに行ってやるよ」
「んっ?アリーチェが持ってるから大丈夫よ」
「持ってる?収納袋みたいな物か、ゴーレムが入るそんなでかいのを持ってるなんてずげえな」
「違うわ魔法よ魔法!収納袋が無くても魔法で出来るのよ?タッくんもこの属性だから知ってるんじゃないの?」
「「えっ??」」
「僕はお父さんと同じ闇属性だけど?」
「んっ?あっそっかぁ、上位属性は知られてない属性だったわね。えっとタッくんは闇属性でいいんだけど、上位属性になると時空属性になるのよ………秘密が増えるけどよろしくね」
「いやいやお嬢ちゃん!時空属性ってなんだ?収納袋みたいな事が出来る属性なのか?」
「ええ出来るわ、たぶん収納する魔法が先で、後から収納袋が出来たんじゃないかしら」
「「…………」」
呆然とするジャンとジャック。
「……僕はその知られてない時空属性?お父さんと同じ闇属性だと思ってたけど……」
「タッくんが闇属性なのはあってるわよ。闇属性には2種類あって、上位属性だと呼び方が違うから分かり易いの、1つはジャンの暗黒属性、もう1つはタッくんの時空属性よ、どっちの精霊もワイバーンと戦ってたけど……あれだけいたら分かりずらいか」
「属性が違うって……そうだったのか………だからお父さんと同じようには魔法が使えなかったのか」
「時空属性にはいい魔法があるわよ、『キープ』って言う魔法なの、保存の魔法で1日しかもたないお肉が2日保つのよ。これは凄い事だわ!難点は初級魔法だから誰でもつかえるって事ね」
「ははっ………お肉が腐りにくい魔法か。みんなが使える初級魔法だけど、まあみんな知らないから僕とアリーチェだけの魔法でもあるか………」
しょんぼりしてそうなジャックに慌てて声をかけるアリーチェ。
「タッくんの属性を活かした戦い方もあるわよ、ラン姉はワイバーンを1人で一方的に攻撃してたから、ああラン姉って精霊のランパスの事ね」
「精霊のランパス?聞いた事無い名前だね」
「属性が知られてないならそうでしょうね。ラン姉はワイバーンの死角に転移して攻撃を繰り返して無傷で倒してたわ」
「へぇ~、僕の属性はそんな事が出来るんだ…」
横で本を読んでいたルナが、アリーチェの前に跪いた。
「アリーチェ様、魔法の知識でしたら私がお教え致しましょうか?」
「んっ?ルーは詳しいの?」
「もちのろんっでございますっ!アリーチェ様!精霊界では暇で暇で読書と研究しかしておりませんでしたので何でもお聞き下さい」
「そう、じゃあラン姉の属性の中級魔法を、タッくんに教えてあげて」
「了解致しましたアリーチェ様」
スッと立ち上がってジャックを見下ろすルナ。
「おいっ小僧!私の事はルナ様と呼べっ!アリーチェ様のご希望だから教えてやる。一生アリーチェ様に感謝するのだぞ」
あまりの変わりようにキョトンとするジャック。
「はっはい………ルナ様」
「良し、時空属性は時間と空間を扱う魔法だ。中級魔法だと相手の時間を少しだけ遅らせるスロー、自分の時間を少しだけ早くするヘイスト、空間に斬撃を置いておくセットくらいが小僧には丁度いいだろう。やり方は自分で苦労して試せっ!以上だ」
「ルー、中級以上だと何が便利なの?」
すかさずアリーチェに振り向いて跪くルナ。
「はいっ!上級ですとやはりアイテムボックスやターン、1秒程度の未来が見えるプレディクト。神級ですとテレポートや、その場所での過去や未来が見えるタイムトラベルでしょうか、ただ、未来は変わるものなので必ず見えたままではありませんが、お試しになりますか?」
「いっいえ、大丈夫よ、ありがとうルー、助かったわ」
「ははっ、有難きお言葉!」
「「…………」」
ジャンとジャックは固まっていた。
変わったタイプだったのでジャックは、粗相の無いようにとお礼を言った。
「あっありがとう、ルナ様……」
「うむ!」
落ち着いてくるとジャックは自分の属性の可能性を思い描いて少し元気になっていた。
ジャンはアリーチェの秘密が精霊召喚だけではない事を感じ始めていた。
(さっきルナとか言う精霊は、神級魔法まで説明していたな、お嬢ちゃんにお試しになりますかって言ってたが………お嬢ちゃんなら出来るって事だよな?神様の加護もあるのか??…………情けないが俺には聞く勇気が無いぜ)
かなりの精神的ダメージを受けて落ち込むAランク冒険者のジャンであった。
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