巫女に願いを…
夜空には満天の星達が楽しそうに瞬いていた。山奥の森には笛や太鼓の音、そして神楽鈴の音が流れていた。
山奥にある小花神社では、夜神楽が奉納されていた。
神楽殿の舞台上には、篝火の揺らめく炎に照らしだされ、重々しくおごそかで、清らかに神楽を舞う小花咲良の姿があった。
清楚に束ねた長い髪が舞うたびに艶やかに光り、手に持つ神楽鈴の音が舞にあわせて響く。
まるで神の世界を覗いているかのように神秘的だった。
それほど広くはない神社の境内には、咲良を観る為に集まった人々であふれかえっていた。
神楽のお囃子と、神楽鈴の音や舞による衣擦れや足運びの音、篝火のパチパチと燃える音だけが聞こえていた。
小花咲良は神社の次女に生まれ現在高校2年生。
巫女として小花神社を手伝い、踊りが好きだったので、神楽の舞手もやっていた。
すぐに神楽の振りを覚え、どう見えるか鏡の前で練習もした。舞いに気持ちを込める為に、神社で毎日感謝の祈りを行い、なぜかお寺で座禅や滝行も頑張った。
純粋でまっすぐな思いをもって舞う咲良の姿は、人々を魅了た。
そして………神をも魅了した……
神楽の舞いが終わり咲良が目を閉じると、身体か徐々に輝き始め、全身が真っ白に輝き無数の小さな光りになり夜空に舞うように昇っていった。
観客たちは少しの間は見とれていたが、演出だと思いしだいに拍手が鳴り始め、割れんばかりの拍手が神社の境内に鳴り響いた。
拍手が鳴りやんだ後には、咲良の姿は何処にも無かった。
* * * * *
咲良はゆっくりと目を開ける。
真っ白な空間に自分が立っている神楽殿と、本殿だけが向かい合って浮いていた。
「えっ?」
咲良は戸惑った。
「あれっ?」
目を擦ってみるが真っ白い不思議な空間は変わらなかった。
「観に来てくれた人たちは?」
真っ白い空間を見渡してみるが誰もいない、不思議な空間だった。
「夢?舞いが終わったとこよね……」
自分の着ている巫女装束や立ってる場所を見てみても、舞いが終わったところに思える。
(現実じゃない感じね……覚えてないけど全部夢だったのかしら?)
咲良が色々と悩んでいると、正面にある本殿の中が輝きだし、咲良に語りかけてきた。
『小花咲良よ、いつも清らかで美しく見事な舞いをありがとう。いつも楽しませてもらっておるぞ。とても癒されるからの』
優しい父のようなとても落ち着く声だった。
「えっとお父さん?………の声じゃあないわね……誰?」
『むふふっ、わしの事を父のように敬う者もおるし、もっと大きな存在と感じてる者もおるぞ』
「父さんより大きな存在?じゃあ………お爺ちゃんかな?」
『世間では神と呼ぶ者が多いかな、お爺ちゃんと呼ばれるのも悪くはないわな、呼び方はまかせるぞ』
「ふ~ん、神さまねぇ………」
(本物は自分で神だって名のるかしら?夢の中で詐欺?変な夢ね………夢とはいえあまり関わらないほうがいいわ)
「えっと、お爺ちゃん………じゃあまたね!」
ペコリとお辞儀をし話しを切り上げて、舞台裏に下がろうとする咲良。
『あっ!まってくれ、お願いがあって話しかけたのじゃ。わっ……わしを助けてくれ』
咲良は足を止める。怪訝な表情を浮かべながら本殿の方を振り返った。
「お願い?助けてって………神様なのに?」
『そうなのじゃ、助けて欲しいのじゃ、まず話しだけでも聞いておくれ、お願いじゃお願いしますのじゃ』
(助けて?お願いしますなんて、神様じゃなく詐欺確定ね。声だけ聞いてても土下座してそうなのが分かるわ)
どうしたものかと悩む咲良
「ん~っとじゃあ分かったわ、とりあえず話しは聞きます」
『おぉ~!ありがとう!』
神と名のる詐欺師………いや、お爺ちゃんの話しはこうだった。
別の世界でも神をやっているが、そこの人々は自己中心的で、自分しか信じられず、家族すら自分の道具みたいな考えで、それ以外の人たちは全て敵と言う考え方があたりまえらしい。
他人を信じる事は無く、喧嘩や争いが日常だった。
見ているのが辛くて堪えられない世界なのだとか。
そんな時に癒しの為に、咲良を観に来るのだそうだ。
神様って言うか孫娘を見に来るお爺ちゃんだった。
それでお願いと言うのが、その世界に行ってみんなに優しさを教えて欲しいそうだ。
高2の女子高生だよ?そんなの無理に決まってる。
そういえば、私のお姉ちゃんも昔は自分以外は敵ってタイプだったけど、いつの間にか家族を大切にするようになってた。
大人になったんだと思う。
きっと人はみんな時間が経てば大人になるのよ!
考えがまとまった咲良は、神様と名のる詐欺師を説得しようとする。
「お爺ちゃん、きっと時間が解決してくれるよ!」
『…………時間が解決?』
(お姉ちゃんだって二十歳過ぎから、家族がちょ~大事に変わってきたし)
「そう、時間の問題よ!だから大丈夫!」
笑顔で声だけの神様を励ます咲良。
『そっそう?そうなのか?………いやいやわしはどうしても咲良に来て欲しいのじゃ、お願いじゃ~もの凄く時間が経っていてもう待てないのじゃ~たのむ~咲良ちゃ~ん』
(むぅ~、詐欺師が泣き落としとか、なんなのこの夢!全然訳が分からないっ!もう適当にあしらってこの夢を終わらせよう。起きちゃえば終わりでしょ)
「お爺ちゃん、もう分かったから、私には無理だけどお姉ちゃんなら頼りになるし、何とかしてくれると思う。お姉ちゃんと一緒ならいいよ」
『おぉ!やってくれるか!よし決まりじゃ!お姉ちゃんと一緒じゃな分かったのじゃ!それじゃあよろしくなあぁぁ~~~………』
神様の声はフェードアウトしていった。
(やった!帰ってくれた)
それと同時に咲良の身体が、光りの粒子になり本殿の方へ流れ始めた。
焦る咲良
「えっ?何これ!夢が終わって起きられるのよね?ちょっとお爺ちゃん?大丈夫よねお爺ちゃん?」
咲良は光りの粒子になって、本殿の中に消えていった。
初めての投稿になります。
いろいろダメな所もあると思いますが、ゆるい気持ちでお付き合いお願いします。
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