ショートコメディ『妻蘭くん』
「つまらん。お前の話しは、つまらんよ」
ココアシガレットを口に咥えたまま、私にそう言った妻蘭くん。彼は、私の友達以下、下僕以上の何者でもないのだが、談笑中にそんな不愉快なことを言い捨てるのだ。ココアシガレットを口に咥えたまま。
その人を見下した態度に、全くもって腹が立つ。彼は、私の友達以下、下僕以上ではなかったのか。結んだ契約に違反するだろう。そんなことを、友達、もしくは下僕に言われる日がくるとは。裁判所で訴えて、楽勝できるレベルだぞ?? いいのか?? いつやる?? いまいくか??
虎視眈々と、私がそんなことを考えていることなど露知らず、彼は、ココアシガレットをふかす仕草をした。いまにもその端から、煙をくゆらせそうな雰囲気がある。まずい。幻覚が見えそうになった。
「で、どこが、どうつまらないの?」
言い捨てられたままだと釈然としないので、訊いてみた。しかし、彼は座ったまま足を組んで、ため息をつくだけだった。そして、片手にシュガレットを人差し指と中指の間でつまんでいる。なかなか、様になっていた。憎らしいほどに、様になっていた。
お前はどこぞのヤンキーを真似たいのか。学ラン姿で、この田舎だと、ただのヤンキーに憧れる痛いやつになるぞ。大丈夫か。とりあえず、この後、担任の先生に「妻蘭くんがタバコ吸ってました〜!!」って意気揚々と報告するのは決定済みなわけだけれど。
クズで、根暗で、気弱な私は、彼がなかなか返答してくれないので、ぶっ殺してやろうかと愚考したわけだが。いや、別に、考えるくらいはいいだろう。文字や口に出さなければ。
「ってちょいー」
「え。どうしたの妻蘭くん」
「全部丸聞こえだって。俺に対する殺意と、悪意と、担任にチクる計画とか、すっげー聞こえてた。すっげー聞こえてた!!」
「そ、そう。私、口が緩いから。つい」
どうやら、地の文が聞こえてしまっていたらしい。多分、丸聞こえは言い過ぎなんじゃないか。私が、地の文をわざとしゃべってる時と、しゃべってない時があるのを知らないのか……。
だって私は、言いたいことは、言いたいように言うクズだからな!! それで、何人の心を傷つけてきたか!! ハッハ、実に誇らしい。ていうか、妻蘭くん冷静沈着キャラからノリに変えた?? 若干、ノリツッコミ入ってたよ??
「緩いとか、そういう問題なの?」
彼は、ごもっともらしいことを言う。いや、それこそ。お前こそ。下僕こそ。そうだ。私は、彼にこれを言いたかったのだ。私に、言い捨てたあの台詞。ここで言わなければ、いつどこで言う。そうか。私は、この日のために、美少女として生きてきたのか。
やっと、美少女としての生き方がわかった気がする。絶世の美少女としての道しるべ。
兎に角、言おう。
「つまらん。お前の話しは、つまらんよ」