「実はさ、異世界人召喚して、一緒に暮らしてるんだ」
大沼パセリさんのCorruptionという曲があります。その曲で使われているホンダソウイチさんのイラストに、謎の生き物が描かれています。とても気持ち悪いです(褒めてます)。異世界人の見た目のイメージはそれです。
ボカロなんですけど、不思議でキャッチーな曲なので、良かったら聴いてみてください。ボカロ苦手な人も、良ければイラストだけでもチェックしてみてください。
「実はさ、異世界人召喚して、一緒に暮らしてるんだ」
煙の充満する休憩室。こっそりと同僚に耳打ちした。
「……まじで」
相手もつられて小声で返したが、今、休憩室には俺たちしかいない。
最近、異世界の存在が確認された。
そりゃあ大騒ぎになった。今まで散々空想し、小説で描かれてきた別の世界。どんな乗り物を使ってもたどり着けない、そんな場所があるのだ。
さらに、異世界特有のエネルギーをこちらの世界に輸入、利用し、魔法を使えるようになった。その時はもう、上を下へのどんちゃん騒ぎだ。
俺たちはその魔法の研究、開発をする会社に勤めている。所謂腐れ縁というやつで、こいつにだったらなんでも話せる。
同僚は眉をひそめた。
「大丈夫なのか?」
「全然大丈夫じゃないね」
そりゃそうだ。異世界関連は法律がまだ整っていないとはいえ、やってることは誘拐。慎重に調査を進め、異世界にはなるべく干渉しない、というのがお偉いさんたちの方針だ。
勝手に新しい魔法を使って異世界に思いっきり干渉し、誘拐した。バレたらどんな罰になるのか想像もできない。
「でも、どうしても……触れて、一緒に暮らして、話をしてみたくってさ」
「お前、異世界人マニアだもんな。オレには理解できねぇけど」
「可愛いのに……」
口から煙を吐き出す。
多くの者が心を踊らせ、異世界を調査した。しかし、知れば知るほど、流石は異世界というべきか、カオスだった。次元が違う。ことごとく想像の斜め上をぶち抜いていった。
知的生命体・ヒトに関しても、期待値が高かった分、落胆も激しかった。
誰も想像したことのないような見た目をしていたのだ。
あまりにも俺たちとは違う見た目から、無念にも嫌悪や拒否反応の対象となってしまったのだった。
「写真とかは見せないでくれよ。オレは異世界人、どうも苦手だ」
と、こいつも異世界人はダメな部類だ。
見慣れれば可愛いもので、仕事の関係上、異世界を覗き見する機会が多かった俺は、すぐ異世界人の虜になった。
うちに連れてきた子は、こちらの世界に突然(しかも同意を得ず)召喚されたのに、大人しくて実に賢い。今ではこちらでの生活にも慣れたようで、簡単な会話ならできるレベルだ。
「うちの子自慢、したかったんだけどなぁ」
「お前もうちょい危機感持てよ」
「あ、切れた。一本ちょうだい」
「お前なぁ」
「ただいま」
部屋を覗くと、彼女がのろのろと駆け寄ってくる。体の構造上、俺たちのようなスピードでは動けないのだ。
てこてこ歩く様子は、小動物のようで可愛らしい。
「おかぁり」
「うん、ただいま。今日も良い子にしてたね」
俺は触手で、彼女の頭をそっと撫でた。
頭というのは、情報を処理したり体を動かす命令を出すための脳という器官や、目(二つしかない)、鼻、耳、口(口は一つだけだ)などの重要な器官が集まった場所だ。それが体の一番上にあるのだ。随分無防備だと思うが、そんな大切な場所を俺に触らせてくれるということは、かなり信頼してくれているんだろう。
他にも、肌という膜のようなもので全身が覆われていたり、触手がない代わりに腕や脚というものが二本ずつ生えていたり、実に興味深い見た目をしている。
「ご飯作るね、何食べたい?」
「しゅべるぎ」
「スベルギ? 分かった、ちょっと待ってて」
笑った拍子に口から煙が漏れ出した。
宇宙人からしたら地球人が宇宙人だよねって話でした。