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「じゃ、ちょっと出かけてこようかな」

それからある程度ゲームをして、俺は彼女に声をかけて立ち上がった。彼女はそれを聞いて不思議そうに首を傾げる。

「どちらに行かれるのですか?」

「ああ、ちょっくら買い出しにな。飯を準備してなかったから、インスタントラーメンでも買いに行ってくる」

「了解しました。私は暇を潰しながらお待ちしておりますね」

彼女に小さく手を振ってパソコンの電源を切り、外出するので服を着替えることにする。少し時間をかけて着替えて、鞄を持ち部屋を後にした。

冬という季節だけあって厚着な人が多い。俺はいくら寒さには強いとはいえ流石に半袖では寒くて一度戻ってコートを着た。

なんかいつもより生気が湧いてきたので少し遠いデパートに足を運ぶことにする。今日はなんだかいいことありそうだ。知らんけど。

音楽プレイヤーを作動させながら歩いているとすぐにデパートに到着した。入るとデパートから陽気な知っている音楽が流れていたのでイヤホンを耳から外す。久しぶりにデパートに来た気がする。というか久しぶりに部屋を出た。それでも思ったより足に負荷はかからず、歩き疲れることはない。元サッカー部の恩恵だろうか。

食料品売り場に突き、慣れた動作でカップラーメン売り場へと直行する。約一週間分のラーメンをカゴに入れ、カロリーメイトをいくつか手に取りレジに行く____ところで一人レジの前をうろうろと歩く少女にぶつかってしまった。俺はいくら引きこもりでも幼女とぶつかり倒れる程もやしはないが、彼女は尻もちをついて俺を明らかにポカンと見上げている。

関わってはいけないやつだと俺のあらゆる神経が叫んでいた。だから俺は彼女の手を取って立たせてから足早に去っていこうとした。

「ぶつかって悪かったな。じゃあな」

俺が去っていこうとすると、彼女は俺のカゴをぎゅっとつかんだ。反動でラーメンが落ちそうになるのを防ぎバランスを整えながら少し威圧するように言う。

「なんだよ」

「おなかすいた」

よく見れば彼女は100円引きのカツ丼を手に持っていた。

「なんだ?レジの使い方わかんねえのか?それを出してそれの値段にあった小銭を渡したら___」

「お金ないです」

その七文字が全てを物語っていた。即座に見捨てるか相手をするかの二択が頭の中に浮かんだが、前者を選ぶ度胸はなかった。

くそ。関わってしまったじゃねえか。


「おいお前、家族はどこだ」

「今はいません」

「家は?」

「今日はありません」

「_____明日はあんのかよ」

「明日はあります」

ベンチに座って桃カルピスジュースを片手にカツ丼を頬張る彼女を横目で見ながら大きくため息を吐いた。全く話が通じない。いや別にいや別に俺がコミュ障であることは関係せず、それ以前の問題なのだ。それに何より恐ろしいことが一つあった。

「お前___本気で19歳?」

「名刺見せましたよね」

「いや__お前年上とか___いや本当におかしいって___怖い現実」

「お金は返しません」

「んなこと分かってるよ!」

俺も隣でカロリーメイトを口に入れながら頭の後ろを掻く。コミュニケーションが出来ない相手と話す難しさを知った気がした。

「お名前なんて言うんですか」

「鈴木中也だ」

彼女は幾度か「中也さん中也さん」と復唱した後、目を細めて微笑んだ。

「お昼御飯ありがとうございます」

体型は見るからに幼女なのに、彼女の笑顔はどこか大人びた美しさを含んでいて約一年誰とも話してこなかった俺は恥ずかしくなり顔をそむけた。

「まあな、願いされても断るわけにもいかねえしよ」

「じゃあもう一つお願いしてもいいですか」

彼女は食べ終わった器を袋に入れて妖艶な笑みを向けた。

嫌な予感しかしなかった。悪いけど。


「おじゃましま__っすと。わあ、結構広いんですね」

「__ああ」

「どうしてそんなに意気消沈しているんですか?年頃の女の子が家に来て嬉しくないなんて相当使い古してますね」

「早速下ネタやめろや。つーかマジでねえよ何してんだ俺___」

彼女のもう一つの願いは彼女の本日の寝床の確保だった。どうやら明日から彼女の祖母が引っ越す為その空き家に住むような。今日そこに住めない理由はいろいろあるそうで、俺がホテルを探すもどこも開いていず、高級ホテルしか空いていなかった為これ以上お金を頂くのは申し訳ないという彼女の意見に同意するとなぜかこの結末に至ってしまった。

まあ言わずもがな彼女が俺以外一年間未踏の王宮に一夜泊まるというものである。

「それにしても汚いですねえ。片付け手伝いましょうか?」

「いらねえよ」

「まあ遠慮なさらず。昼は用事ありますか?」

「ゲーム」

「では一緒にお片付けしましょう。頑張りましょうね、中也さん」

抜けているのか、それともしっかりしているのか。俺は突然何もかもがよく分からない女性に絡まれてしまったななんて思いながら今まで見てきた非日常から自分の未来が『日常』に変わっていったことをどこかで悟った。

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