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「今日は本当にお疲れ様でした」

俺たちはそれから数十個のクエストを達成し、徐々にレベルを上げていった。先程の竜の玉を運ぶクエストは中々キツかった。覚えている内で4回失敗している。

クエストを終了し、今は近くの宿屋に寄って、二人で今はお金の使い道を考えているところである。

「結構レベルは上がった方なのか?これは」

「一日でお互いレベル21になれるとは思っておりませんでした。マスターは凄く小銃の操作が上手のようでしたし。何かしらの銃ゲームを体験しておられましたか?」

「昔ダチとちょっとだけやってたからな。それの名残かもしれねえ」

「銃___が使うのがお得意なのですね」

すこし淋しげに彼女が言うのを聞き流しながら俺はバックの整理に集中した。このゲームには主人公のRPGステータスに加えて生活限界ステータスというものが存在し、食事などをゲーム内で取らなければ死んでしまうという設定らしく、武具費だけでなく二人分の食事代や宿費もかせがなくてはならないのである。よって先程から様々な用途で使用するお金を整理しているところなのだ。

「それに結構銃を装備していたら受領出来るクエストの報酬は多いみたいだし」

「基本プレイヤーは剣や槍など前線に出る装備をして私が後方から援護すると思っていましたので。それに銃の使う方法はそこそこ難しいと思うのですがマスターはいとも簡単にこなしてしまいましたからね。さすがマスターです」

「だから俺が後衛に行ってしまってすまねえな」

「いえいえ」

取り敢えずお金の整理を終え、必要最低限のお金は仕舞う。そして残りのお金ですこし豪華な夕食を取ろうという事で二人の意見が合致した。

宿を出て、買う気もないのに防具やなどに立ち寄りながら、レストランに辿り着いた。その間も彼女との会話に絶えはなかった。

「それにしてもマスターはゲームがお上手なのですね。普通の人でも挫折するような難易度にしたのですがマスターは平気でクリア出来そうです」

「まだ始まりだからなんとも言えねえんだけどな。つーか、このゲーム結構細部まで出来ててすげえよ。平気で金取れるぜ?この完成度なら」

「私が求めているものはお金のような紙切れではありませんから」

彼女が食事を選んでいる間、俺はインスタントラーメンを作ることにする。彼女は俺の三分料理に反面して良く出来た美味しそうな料理だ。向こうの世界の俺も食っているのだが。

「私が求めているものは貴方がたマスターとの対話です。マスターが住む世界に比べて私の住む世界はひどく退屈なものです。そんな中で私の一厘の楽しみはマスターとの対話なのですよ」

「俺からしたらそっちの世界の方が余程楽しそうだがな」

「そう見えますか」

彼女はメニューを見続けている為表情は察せられない。それでも彼女は気を害したような仕草は見受けなかった。

「俺はこのゲームを終えたらさ___」

「?」

「いや、いい。こんなことアンタに話しても自己満足にすぎないからな」

「マスターの自己満足でも私は相手になりますよ。だって私___佐々木真帆はマスターの相方ですから」

突如頭に強い痛みが走り、キーボードに重なるようにして倒れこむ。フラッシュバックだ。痛みを伴い発生する彼女の怨恨。がむしゃらに右手を伸ばして近くの錠剤を三つ程口に入れ飲み込んだ。効果減衰が分かっていても一番近くにある炭酸飲料を喉に無理やり流し込む。口端から溢れ出て来た飲料水がジャージの腹部を黒く染めた。

「マスター?大丈夫ですか!?」

彼女の悲痛そうな声が部屋中を反響する。俺はただもたれかかって自我と自分を支えた。

「___持病だよ。気にすんな」

そうは言うものの頭はクラクラするし、無理矢理炭酸飲料を送った喉は焼けるように痛い。前髪の裏のデコは汗でベタベタでタオルで拭っても拭い切れる気配は見られなかった。

これは、やばい。


間違いなく_____死_______。



「ですがお体に異常を来たしていられるようですし、お休みになられたほうが___」

「いや大丈夫だ。どうしてかもう少しでいいからアンタと話がしていたいんだ。今日が終わるまでに少しでいいから_______________」



『今日は私と飲み明かそうよ!私だって大人だもんねーー!』

『真帆がそうしたいなら別に構わないよ。まあカルピスソーダ飲み続けたら流石に吐くだろうけど』

『私達は吸引ポンプか。違うよ、沢山話したいことがあるんだ』

『これだけ会い続けても話し切れていない事なんてあるのか?』

『私は話した。それでも君は聞こえなかった。そんな言葉をもう一度言いたいだなんてね』

『___』

『何にも身構える必要はないよ。告白かもしれないよ?キャッ!』

『笑えないね』

『うん、そうじゃないからね。気づいてくれれば___中也が気づいてくれたらねぇ____?』

『どういう事だよ』

『まあいいや、私はもう少し中也と話がしていたいの。お願い、今日が終わるまでに少しでいいから__________________』



『『『『『『『『『中也の間違った選択を嚙み締めて貰わなきゃ』』』』』』』』』



胃から何かが上ってくる気配を感じ、その場を後にし、洗面所に走った。そしてその勢いのまま胃液や唾といった消化液と共に全てを吐き出す。昼飯に食べた麻婆豆腐のかけらが白く濁った液体の中に浮かんでいる。すぐに二発目が上り詰めてきて、それも同じようにぶちまけた。そしてその中身から確認して、俺は言葉を失った。


________血だ。


決して少なくない血液が洗面所に広がっていた。その光景を見るだけで喉がまた焼けるような痛みに襲われる。喉を掻き毟りたい衝動に駆られるが、三発目しか生まない無駄な行動をなんとか抑えた。

ふと弱った瞳が今度は胃から迫り上がってきた血の中に浮かぶ消化しかけの錠剤を捕らえた。衝動的に俺はそれを素手で拾い、口の中に入れ蛇口の先を俺に向けて一気に流し込んだ。地下水でも飲めないことはないだろうと思いながら俺は背を壁に合わせてゆっくりと腰を下ろす。

何かが頬を伝う感覚に意識を預けながら、俺はほとんど機能しなくなった発声器官を捻りながら掠れた声で悲嘆と後悔を誰もいない空間と戻ることのない過去に訴えた。


「俺の何が___何が悪かったんだよぉ___真帆、なぁ__ッ!」


何もない空間から自己の弱さに嘆き泣く俺を誰かが見下ろしながら嘆息された気さえした。



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