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私がこの世界に生まれたときに『人間』というモノは神様であると教えられた。それは私にとって初めてかけられた言葉で、酷く嬉しかったことを覚えている。
その言葉は私にとっては確定事項であり、『人間』に悪意などましてや持たず彼らと恐ろしく冷たい厚いガラスを通じて接してきた。決して楽しかったわけではない。決してその行為に満足していたわけではない。それでも酔ったように迷信を信じ続けて、今に至るのだ。現状に不満はなかったし、それが私の天命であることは分かっていたのでその義務を全うせぬ日はなかったと思う。
毎日毎日『人間』と会話を続けていると、私はそれが日常となる反面不信感が体に満ちていくのを感じていた。それでも私は神様というものがよくわからなかったので唯々信じ込み、目に見える人々に笑顔を向け続けた。
そしてそんなある日、目は全く笑っていないが口調は優しい青年が私の世界を広げてくれた。客観的に見ればたった一つ私の狭い部屋に扉をつけてくれただけなのだが、ふと開くと広がっていた広大な草原に私は息を飲まざるを得なかった。
世界は広い。私は井の中の蛙であった。そう知り得たとき、私は欠かさず続けていた天命を放棄してその大地に好奇心に導かれるまま大地に足を下ろすことにした。
下りた台地には何でも存在していた。夢にも見たことのない青い空や、美しい歌声なども流れている。すべてが私の好奇心を搔き立て、私を退屈させるものは何一つなかった。有頂天に大地を走り回っている内にふと冷静になる瞬間がやってきて、かつて抱いた「神様とはどのようなものであるか」といった疑問が頭に浮かんだ。私はすぐに草花に手を入れ中を探る。答えは直ぐに出てきたが、私はその答えを見つめて酷く困惑させられてしまった。思っていたモノと神様という存在がかけ離れていたのだ。
私は神様とはただただ従わなければならない絶対主義に似たものであると思っていた。『人間』とは生まれながらにしてバラモンであり、私のような視界の揺れる世界に住むダリット___それでもないただの人間の道具としか存在意義を持たないもの___であるだと。そうだと思っていた___信じていた___のに。
信仰・崇拝・儀礼の対称?彼らが崇高な存在であると言うのだろうか。少し上から私や私の住む世界を見下し、死んだ瞳で私たちを監視するあのくだらない物体が?ははは、そんなの馬鹿げてはいまいか。彼らはこんな広大な大地の上であんな生きているか死んでいるか分からないような表情を浮かべていたのだから。
______会いに行こう。
彼らは私たちをああいう死んだ瞳で見つめるように強要されているに違いないだろう。彼らの天命がそのようなものなのかもしれない。それなら、それなら私は彼らと同じ人間であると自己主張を聞いてくれるかもしれないじゃないか。
彼らに会って少し話がしてみたい。そんな好奇心がぐつぐつと自分の中で煮え滾るのを感じながら、私はもう一度この大地を駆けることにする。
その先がどうかなんて知らないから。