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バレンタイン
「やっぱりチョコレートって欲しいものなの?」
〇実の問いにムキになって答える。
「そんな子供じみたもん欲しがるわけねぇだろ」
それこそ子供じみた意地を張る。
授業が終わり、三々五々教室を出ていくクラスメートの何人かがチョコがどうとか言っていたのは聞こえていたし、せめて義理でもと意地汚い期待をしていた自分に腹が立つ。
「〇実は誰かにやるのか?」
「誰にやるのよw」
「いやそれを俺に聞かれても」
「今はまだ上げたい人も居ないし」
「フーン」
「あげたい人も居ないあたしに」
「くれる女子も居ない俺」
「お互い今年は淋しいバレンタインだね」
「だからって、慰め合うつもりはねーぞ」
「それはお互い様よ」
苦笑を返す〇実。
「でもごめんね、せめてチロルの一つも持ってくれば良かったね」その瞬間口の中に何かが拡がる。
「いやその気持ちだけで充分」
カバンにノートを詰めて帰り支度をする〇実に尋ねる。
「チロル、完熟梅味か?」キョトンとした顔で〇実が答える。
「完熟梅?あああれ美味しいよね」
俺の口の中に拡がった甘酸っぱさが〇実に分かるはずもないんだが。