片恋
「だって彼女居るんだよ?」
泣きそうな顔で訴える□枝にそれ以上掛ける言葉が無い。
「だからって何も告げずに終わりにすんのかよ」
残暑が□枝の白い半袖シャツから伸びた長い腕に照り返す。
想いを寄せた先輩には既に彼女が居た。
「片思いのままでもいいんだ」
肩を落としたまま呟く□枝に「せめて想いを打ち明けるだけでも」と水を向けたんだが、□枝の態度は頑な。
それでも彼女の表情が満足げなのは、彼女なりに気持ちの整理がついているんだろう。
「片思いって辛いね…」
窓の外では野球部員達の掛け声。
廊下を行き交う生徒達は秋の文化祭の打ち合わせの声。
「美術部の出しものがさー…」
片思いが辛い。そんな事なら言われなくても嫌という程知っている。
想い人が居る人を想う。
自分もその想われ人の一人だと気付いたら少しは片思いの苦しみもやわらぐもんなんだろうか。
想い人が居る人を想う□枝を想って見つめる俺の姿など当然□枝には眼中に無いんだろう。
想いが重い。
頭の中でダジャレを言って見ても締め付けるような胸の痛みは消えない。
「片恋だって恋の内だろ」
□枝に言ってるんだか自分に言ってるんだかわからないセリフを呟いて慰める。




