合格通知
まだまだ入試には早いんだが。
階段の途中。
先を登っていた女子がふいに立ち止まり、危うく身を避ける。
「これ」
横をすり抜けようと一歩登り掛けた俺の前に横から差し出された白い手。
思わず見上げて、立ち止まった女子が□子だと気付く。
瞬間、脳裏にいろんな思いが巡り、手を出すのが遅れる。
「これ」
躊躇う俺の前にもう一度突き出される封筒。
□子の頬が少し赤い。
意を決して封筒を受け取ると、逃げるように階段を駆け上がる□子。
封筒を手にぼんやり階段に立っていると、後から登って来たクラスメートに変な目で睨まれる。あわてて教室に向かう。
□子に手紙を渡したのは一昨日。
一昨日、昨日とまんじりともせず過ごし、今日に至る。
正直まるで期待なんぞしてはいないが、いざこの手に返事を渡されるとくる物がある。
「ずっと好きだった。付き合って欲しい」
たったそれだけの文面を渡すのにどれだけ迷って、どれだけ躊躇ったか。
やってみて思った。これが清水の舞台から飛び降りるとかいうやつか。
言葉の意味はまるで理解出来なかったが、生きた心地がしない事だけは痛いほどわかった。
教室に入る前に封筒を内ポケットにねじ込む。
情けないが学校で読む勇気なぞ無い。
手紙を渡す前から自分に言い聞かせて、充分わかっていたはずなのに、この後に及んで自分の臆病さに歯ぎしりする。
午後の授業がまるで頭に入らず、気が付けば放課後。
三々五々教室を出ていくクラスメート達の波に我を取り戻す。
我に返った俺の横に、気が付けば誰か立っている。
見上げた先にあるのは□子の白い顔。
もう教室には俺と□子しか居ない。
「読まないの?」
恥ずかしながら□子が言ってる言葉の意味が思い出せなかった。
「??」
キョトンと見返す俺に、□子の言葉。
「出来ればあたしが帰るまでに読んで欲しかったんだけど…」
淋し気な微笑みを浮かべて背を向けた□子の背中に、心臓の前に置いた封筒の事を思い出す。
教室の引き戸を開けて姿を消す□子の姿に、□子の言葉が頭の中でリフレイン。
「出来ればあたしが帰るまでに読んで欲しかったんだけど…」
さっきは考える事も出来なかった言葉を今一度噛みしめる。
頭の中で何かがごうごうと音を立てて回る。
なんで帰る前に…。
跳ね起き、教室を飛び出す。
内ポケットから封筒をもぎとり、昇降口へ走る。
彼女の前で読まなくちゃ。




