太ももと青空
「なんで〇之が学校辞めなくちゃならないんだよっ!」
言ってもどうにもならないと分かっていて口に出す。
机の横に投げ出した俺の足の先を、隣席の椅子に腰かけたまま、スカートの先のシューズでこつんと小突く〇美。軽く首を横に振り、「止めなさいよ」と意思表示する。
「お父さんが倒れて、稼ぎ手が居なくなっちゃったって聞いたでしょう?」
それは聞いたし、わかっているつもりではいた。
兼業農家の〇之の家の父親が、勤めていた工場の機械に挟まれて頸椎損傷の重症。
一命はとりとめたが、車いす生活に。
働けなくなった父に専業主婦の母。下に3人の妹弟の居る〇之が学業を諦め一家の柱に。
その覚悟は立派だし、応援もしている。
でも納得出来ない。
〇之にはなんの落ち度もない。
状況を冷静に見てみれば、誰も責められないし、不幸な偶然が重なっただけだ。
わかっているつもりなのに、押さえきれないやりきれなさ。
込み上げるいら立ちを吐き出さずにはいられない。
椅子に横座りした〇美の足先が、机の横に投げ出した俺の足先を途絶えることなく、小さく軽く、ノックし続ける。
思わず〇美の顔を見やればわずかに苦虫を噛んだ様な表情を見せた。
きっといら立ちを抑えきれない俺はキツイ表情をしてたんだろう。
「あたし達さー、10年後にはどんな青年になってるのかしらねー」
唐突な話題に面食らい〇美の顔を見るがこちらを向いていない。
「今は学生だのなんだの呑気してるけど、10年後にはみんな社会人してるんだよねー」
その手に教科書を持ち、顔は黒板に向けたまま独り言のように語る。
まただ、また女子に自分が如何に子供か思い知らされる。
只どうにもならない苛立ちを無闇に吐き出すだけの俺に、既に昇華して先を見据えている女子。
女子が先に大人になる事例は嫌という程思い知らされているが、つくづく自分も成長しないものだと嫌気が差す。
「〇〇君ってさ」
悪戯っぽい笑顔を浮かべて〇美が言う。
「草の匂いするね」
表情から嫌味ではないと感じて苦笑いを返す。
ふと落とした視線の先のスカートから覗く太ももが眩しい。
顔を上げれば窓の外は悔しいほど青空。
思わず頬杖をつき、窓の外と〇美の太ももを交互に眺める。
「何処見てんのよw」
気付いた〇美がスカートの裾を下げる素振り。
目を眩ませているのはなんなんだろう?
睨まれるの承知で又太ももに視線を戻す。




