茶髪
「なあ」
「何?」
「▽子の事なんだけどさ」
「うん」
「髪の毛戻す気無いんだ?」
「無いみたいだね」
こっちを向かず、窓の方を見たまま答える〇子。
痩せぎすで大人しかった▽子が、夏休み明け、長い黒髪を見事な茶髪に染めて来た。
それも校則で束ねておくことが義務付けられている長髪も、垂らしたままであまつさえ毛先にカールまで。
当然校門で停められ教師とひと悶着。
呆れたことに大人しかったはずの▽子が教師の制止を無視してそのまま教室へ。
「〇雄君と付き合い始めたらしいね…」
「…うん」
俺の歯切れが悪くなるのは話題に出た〇雄の事を小学生の頃から知っているからだ。
小柄で小学生の頃は普通の子供だった〇雄。
小学4年の時両親が離婚、以来母子家庭で、中学時代に悪い友達が出来て中卒で土建業に。
「〇雄、決して根が悪い奴じゃないから…」
俺が悪いことをしている訳でもないのに言葉が小さくなる。
「▽子、進級前にお母さん家出ていったんだよね…」
〇子がこれも小さな声で呟く。
「やっぱり相通じる所合ったのかなあ」
ぼやく俺に、大きく息を吸い込んで、答えるでもなく天井を仰いで伸びをする〇子。
「あたし達みたいに恵まれた人間にはいけない行動に見えても、彼女たちにとっては慈しみあいなのかな?」
相変わらず俺にうなじを見せたままの〇子の背後の窓の外の青空が気のせいか寒々と見える。
「恵まれてるって、〇子優しいんだな」
後ろ向きのまま首をすくめる〇子。
「〇〇君こそ、風紀委員の癖にそんなに落ち着き払ってていいの?」
〇子を真似て大きく伸びをして答える。
「俺だって風紀委員の前に高校生だよ」
「俺らにはしてやれることはほとんど無いけど」
「理解してる生徒は居るって事だけでも伝えたいよね」
やっと振り向いた〇子が優しく微笑む。
青空が寒々と見えたのはやっぱり気のせいだったようだ。




