飛沫
「本気なの?」
「うん本気」
問う〇美に迷わず答える。
「恐らく、ううん間違いなくみんなの笑い者だよ?」
「きっとそうだろうな」
満面の笑顔で答える。
「そもそもそんな要件あたしに頼むか?」
憤懣やるかたないと言った表情で俺に詰め寄る〇美。
廊下で見かけた可愛い後輩を屋上に呼び出して欲しいという話なのだが。
「幼馴染じゃないかよ頼むよ」しっかと手を握り懇願する。
「まずその手を離せ」
睨みつけて顎をしゃくる〇美。
「他の女子の手、そんな軽々しく握れるかお前」
「まあそれはそうだ」
つい答えて激しく手をはたかれる。
「つくづく人を女として見てないな貴様」
物心ついた時には向かいの家に居た〇美。
お互いの両親が友人だったこともあり、預けたり預けられたり。
どっちがどっちの家だかわからないような家族ぐるみの付き合いをしていたせいもあり、高校生になった今でもおよそ異性と言う意識が持てない。
小学校低学年までは帰りの遅い俺の両親のせいで、〇美の家でお風呂を一緒に入った仲だ。
リアルの幼馴染がどんなものか知らない奴らは想像を逞しくするのだろうが、実情を知る俺や〇美にとってはとんだお笑い草だ。
思春期はおろかまだ毛も生えない子供が一緒に風呂に入ろうが何を感じる物か。
妙な想像をするのは思春期をこじらせてからだ。
「取り敢えず屋上まで呼び出してくれるだけでいいんだよ」
「その後の展開が目に見えるようで気が進まないんだけど」
「結果は俺だって想像ついてるよ」
胸を張って告げる。
「大事なのは結果じゃない!この想いを彼女にぶつけたいんだっ!」
「この溢れるしぶきをっ!」
「飛び散った飛沫であたしまで濡れそうだよw」
悪態をつきながらもどこか満更でもなさそうな〇美の笑顔に励まされ今更のように決意を熱くする。
「わかったよ言って来い。骨は拾ってやる」
まるで男同士の友情の様なセリフを吐く〇美。
諸兄にも知っていてほしい。これが正しい?幼馴染というものだ。
ん?いいのかこれで?。




