背伸びと肘
「お前私服ではそんななの?」
予想外のいでたちに正直ひきつる。
「お姉ちゃんに着せられたんだよ」
穴があったら入りたいとでも言いたそうに、ロングスカートの前で両手を合わせ反論する▽子。いつもは編んでいる髪も降ろして、雰囲気が普段と別人。
そう言えば彼女の姉はここいらでは有名なイケイケ。
恐らく今日着て来たこの服も姉のものなんだろう、▽子にはどこか大人びたセンス。
その反動か、学校での▽子はひたすら地味。
いつも本を胸に抱き、図書室か教室の後方の席で本を開いているイメージ。
改めて▽子のいでたちを眺め思い出す。▽子は女子の内では背が高く、それで後席に廻されたんだった。
体型もイケイケの姉に似てスレンダー。
「男の子と会うのにそのカッコはなんだって怒られちゃってさー」
上目遣いに半分申し訳なさそうに言い訳する。
「そんなんじゃないっていくら言ってもお姉ちゃん聞かないんだもん」
履きなれないんだろうロングスカートの襞をもじもじ触っている。
「あのさ、今気づいたんだけど。お前。化粧してる?」
瞬間▽子の頬に朱が差す。
「お、お化粧はダメだって言ったんだけど…」
押し切られたんだろう、言葉が尻切れトンボ。
「なんか言われたら素肌ですって押し切れって」
火を噴きそうに頬を赤くして言う。
確かにあの姉なら言いそうだと思いつつ、急に周囲の視線が気になりだす。
他校との交流会を控え、運営委員に選ばれた俺達が打ち合わせに休日を利用して街の茶店で会おうとしただけなのだが、イケイケの▽子の姉にしてみれば、地味な妹が外で男子と会うなどと聞いて黙っていられなかったのだろう。
相手の男の事も少しは考えて欲しかったものだ。
おめかし決め込んだ▽子に対して俺はと言えばどこから見ても如何にもな男子高校生。
傍目に姉と弟みたいに映ってないだろうななどと要らぬ心配が頭をよぎる。
これも、姉におなじサイズだからと履かされたという、コルクのハイヒールが慣れなくて、よろめく▽子に肘を貸してここまで来た事を思い出して頬が熱くなる。腕を組んだ訳では無く、肘を掴ませただけでは有るのだが。
普段は気にもしたことが無かった▽子がにわかに女性としての存在感を示してどぎまぎする。
気を紛らせようと運ばれたコーヒーに口をつけ、熱さに噴き出しそうになる。
その様子を見ていた▽子が笑う。
いかん、これではまるでデートではないか。
そして得てしてこういう時には悪いこと?が重なるもの。
ふと見上げた店の入り口に覗いたのはクラスメイトの女子達。
やばい、これはかなりやばい。
かといって逃げもならず、隠れもならず。
「どうしたの?」顔を伏せる俺に笑顔で問いかける▽子。
明日からクラスメイト達の魚にされるんだろうなと凹みつつ▽子に苦い笑顔を返す。




