夜歩き
「こんな時間に何してんだよ?」
「!」
後ろから声を掛けられて驚いたのか飛び上がる〇実。
友人の家に遊びに行き、ついつい長居して夜。幸い友人の親は帰りが遅く。
夕食も遅いのをいいことに長居してしまった。
「〇〇君こそこんな時間に…」
唇を尖らせて言い返す〇実。驚かせて機嫌を損ねてしまったか。
「俺〇〇んちに遊びに行って今帰り」苦笑して言い訳。
「あたしはこれでも塾帰りだよ」
「それにしちゃこんな時間にうろうろそこら眺めてるのはどういう訳だ?」
笑いながら問う。
散々通って見知っているはずの通学路を、外灯が灯り始めるこんな時間に眺めながら歩いている〇実に後ろから来た俺が追い付いてしまったのだ。
「卒業したら暫くこの町の風景見れないじゃん」
「そいやお前県外に進学だっけか?」
「そう」
答えて〇実はゆっくりと歩き出す。
「〇〇君。どうせうちに帰るところなんでしょ?」
「ああ、そうだけど?」
「ついでだし、あたしのうちの前まで送ってよ」
参考書が入っているのだろう布製のカバンを胸の前に抱き、俺に見送りをねだる。
「怖いのかよ?」
「こう見えてもうら若い女子高生なんだぞ、少しは気を利かせなさいよ」
正直襲われても充分反撃しそうに思えるが逆らうと後が怖そうなので下手に出ておく。
「あたしが帰ってくる頃にはここの風景も変わってるのかな」
さっきまで降っていた雨の跡が路面を濡らして、外灯の灯りを反射して夜の街並みを仄かに映している。
「大学出たら直ぐ戻ってくんの?」何気なく問う。
「ん~、それは仕事が有るかどうかで決まるからなんとも」
もっともな話だ。
濡れた路面を歩く〇実の姿がどこか淋し気に見えるのはきっと俺の気分のせいなんだろうな。
「俺も県外進学だし、そしたらネオンの夜景見る事になるのか」
ぼそりと呟く。
「ゆっくり歩こうか?」
〇実の提案に頷いて歩みを緩める。
まだ冷たくはない夜の空気が心地いい。




