キャンバス
「塾行くんだ?」
放課後の美術室。キャンバスに向かいながら窓際の▽子に問いかける。
「うん、特に上の大学目指してるとかは無いんだけどね」
「凄いな塾まで行くとか」
デッサン用鉛筆を走らせてはいるが、素描も素描、描いている自分にも良く分からないデッサンに我ながら呆れながら話を続ける。
「無理だとは思うんだけど、絵が好きだから美大に進みたいんだよね」
パレットを捏ねながら呟く▽子。
「美大って難しいんだよな」
「うん、どういう訳か倍率凄いw」
「努力してでもやりたい事があるっていいよな」
名前だけの美術部員の俺と違って、▽子はパレットを拡げて彩色中。
俺のキャンバスは今の所白と黒で灰色でしかないが、▽子のキャンバスはもう色がつきはじめている。
「〇〇君はどんな将来描いてるの?」
▽子の問いに目の前のデッサンを眺めながら答える。
「まだ、暗中模索」
目の前のデッサンと同じだ。
「これからどんな絵でも描けるってことだね」
微笑んで言う▽子だが、当の俺は焦りも有る。
「▽子の方は進み具合どうよ?」
「うーん、目途がつくのは来春かなw」
目の前の絵の話しか、思い描く夢の話しか。
「当てが有るだけ立派」自嘲を込めて笑いかけて画用紙を取り換える。
「あたしはまだ用紙取り換えられる○○君が羨ましくもあるんだよ」
▽子の微笑みには余裕がある。妬みも交えて揶揄を返す。
「いつか出来上がった絵、見せてくれよな」
キャンバスに向けていた視線をこちらに向けて答える▽子。
「いいけど、その時はお互い見せっこだよw」
悪戯っぽく笑う▽子に顎をしゃくって頷いてみせる。
何を描くか決めてはいないが、取り敢えず青空を描く事だけは思いついた。




