先生
「何ジロジロ見てんのよ?」
「いや別に」
秋の日も暮れかかり西日も傾く時間。
昇降口の窓から外を見ていた俺にクラスメイトの〇子が声を掛けて来た。
「先生もう帰るんだ」
呟く俺に〇子の答え。
「明日研修会で出張だとか言ってたよね」
「今日は早く帰って明日の準備でもするんじゃないの?」あっさり言う〇子。
理由が有った訳では無いが〇子の姿をまじまじと眺めてしまう。
「なによ?」
「いや別に何にもないけど」
「何にもないけど?」食い下がる〇子。
「〇子と先生ってさ」
「何?」
「身長も体格もほとんど変わらないよな?」
「まあ、高校生にもなれば体格は大人と変わらないし…」
「なのになんでまるで雰囲気違うんだ?」
俺の発言に〇子の動きが止まる。
見れば〇子が睨みつけている。
「君はあたしに喧嘩売ってる訳?」
「??」
「体格同じで雰囲気違って」
きりりと俺を睨みつける。
「どうせあたしはまだ子供だよ!」
叩きつけるように下駄箱の蓋を締めスニーカーを床に放る。
〇子の反応に多少毒気を抜かれながらそれでも言葉を繋げる。
「誤解させちゃったようだけど」
「何が誤解よ」
「そういう意味じゃないから」
スニーカーに足を突っ込む〇子の背中に言葉を続ける。
「お前も教師志望だったろ?」
「!?」
スニーカーのかかとに人差し指を入れたままの〇子は屈んだまま。
「いずれお前もあんな素敵な女性教師になるのかとふっと思っちまってさ」
「確かにお前の事子供にみえてるんだろうけど、お前が教職に就く頃はもう大人」
ゆっくりと身体を起こした〇子が呟く。
「そりゃいずれは教師になるつもりだし、放っておいても大人にはなるけど」
「素敵、になれるかは何とも言えないよ…」
気恥ずかしいが誤解を解く為にも言っておく。
「その点は大丈夫」
「俺心配してないから」
俺の顔を見ずに、何故か一度は蓋をした下駄箱を開け。中の靴を直して今度は静かに蓋を締めなおす。
「あたし先帰るね、さようなら」
去っていく〇子の頬が紅葉色に見えたのはきっと秋の西日のせいだろう。




