万年筆
「マジかよ!」
呆れて問う俺に真顔の〇実の答え。
「大真面目だよ、嫌なの?」
そもそもSNS全盛のこの時代に何故交換日記などという古風な物を。
「文字が好きなのよ」
視線を床に向けながらぽつりと言う〇実。
「スマホのフォントって味気なくない?」
ほとんど毎日使っていてそんな事考えた事もなかった。
「そうか?」
ピンとこずに曖昧な返事を返す。
「〇〇君だってさ。ただのクラスメートの声と好きな子の声、どっちが好き?」
憎らしい例え方しやがる。そういう例え方されると字体に拘る〇実の言い分も解ってしまう。
「別にあたし達二人で交換しようって話しじゃないんだしさ」
「うーん」
煮え切らない返事を返す俺に畳みかける〇実。
「あたしみたいな考えの女子が何人かで交換しようって話で」
「女子ばっかりじゃつまらないから男子も巻き込もうって話で」
「刺身のつまかよw」
「もし、もし参加してくれるならさ」
「万年筆プレゼントするよ」
「ええっ!?」
驚く俺に言葉を続ける〇実。
「もちろん高い物なんかあげないよ、貰い物の安物。元手ゼロ円w」笑顔で言う。
「俺万年筆なんて碌に使った事無い」
「それでもいいんだよ」気にも留めない。
「万年筆ってさ、その人の、人となりが字体に現れるんだよね」
「ん~、でもな~」
渋る俺に〇実のとどめ。
小首を傾げて俺を眺め言い募る。
「あたし、〇〇君の書いた文字見たいんだよな~…」忌々しいが可愛い。
やぶさかではない。
なんだか話の中に幾つか引っ掛かる部分が無かった訳では無いが。
〇実は結局何がしたかったんだろうか?
首をひねってしばし考える。
隣の〇実は満面の笑顔だ。なぜだろう。




