号砲
「やっぱ競技用だと気にならないもんなのか?」肌色の多い彼女に軽口を叩く。
「〇〇君そーゆーこと言ってるとそのうち階段から蹴落とされるよ」
答える□美の笑顔が眩しい。眩しいのは玉の汗のせいもあるかもしれないが。
確かに馬鹿を言ってられる立場じゃないんだよな。
中間テストの結果は、進路指導の教諭に渋い顔をされる始末。
「女の子のお尻追いかけてる場合じゃないんでしょ」
「よくご存じで」
「皆進路もほぼ決まって、走り出してる時期だもんね」
心なしか放課後の生徒達の動きもそわそわした感じに思えるのは決して俺だけの気のせいではないようだ。
運動神経抜群の□美は体育大学志望。冗談でなく既にスタートダッシュを決めている。
「俺文系だから…」
「マラソン志望だからクラウチングはしないと?」苦笑する□美。
そんな訳でもないが、理系に比べれば呑気なのは確か。
その分将来の夢も小さくなるが。
「一応教員免許も取った方がいいのかな?」
「滑り止めみたいなもんだし、あたしも取るつもりだよ」
話しをしていると出遅れてる実感が湧いてくる。
「でもさ、〇〇君追い込み型じゃなかったっけ?」
「??」
どうやら走りの事を言ってるらしいと気づいて苦笑する。
「これまたよくご存じで」
「まくってやるから覚悟しとけ」
大きく吹いて席を立つ。
「俺もひとっ走りして来るかな」
「スターティングブロック貸そうか?」
笑顔の□美に笑顔で答える。
「お前のセリフがブロック代わりだよ」
□美の笑顔が弾けて眩しい。
号砲を聞き逃した分取り戻さないとな。




