フェンス
「校則は知ってるな?」
生活指導教諭のお説教を聞きながら、並んで立つ□子の様子を伺う。
ほんの少し髪の毛を染めただけなのだが、違反は違反と風紀委員の俺と共に職員室の教員席の前に立たされてお説教を受けている。
「怒られるのわかってたろうに」
教室に戻る道すがら□子に尋ねる。
「分かってたけどさ…」
俯きがちに、でも険しい表情で言う□子。
「〇〇君は決まりを破りたくなる事ってないの?」
「風紀委員なんてやってるくらいだから、そんな事無いのかな」
揶揄するように言う□子に答える。
「風紀委員はなり手が居なくて押し付けられただけだってお前だって知ってるだろうが」
「親がさ」
「地元の大学行けって…」
返事に詰まって歩みを緩める。
「あたしやりたいことが有るから他県の大学行きたいのに」
見れば唇を噛みしめている。
だからといって校則違反を犯して何がどう変わる訳でもないだろうに。
教室までの廊下が果てしない距離に感じられたが何とか言葉をひねり出した。
「フェンスってさ、なんであんなに指を掛けやすい作りになってるんだと思う?」
「??」悔しそうな表情のまま首を傾げる□子に告げる。
「あれ、乗り越えやすいように配慮されているのかもな」
「!?」
「一週間位逆らっててもいいんじゃね?」
「それくらい若者の風紀を守るのも風紀委員の仕事かと」
我ながらカッコいい事言った。引き換えに俺が教諭に手厳しく叱られるだろうが。
それで□子の痛みが少しでも和らげばクラスメイトの甲斐もあるだろう。
「ありがとう」
何とか教室に着く前に□子を笑顔に戻すことが出来た。
今日は自分に及第点をあげておこう。




