転校生
全部俺が悪い。
言い訳はしない。
気付いた時には言葉が出ていた。
「行くなよ」
瞬間、周囲の空気が凍り付いた。
「!!!」
無言だが物言う凄い目つきで隣席の女子に睨まれた。
いや、彼女だけじゃない、周囲の女子の鋭い視線。
斜め前の席の〇枝がゆっくり、そしてずっしりと机に突っ伏す。
特に〇枝に思い入れが有った訳でも、ましてや恋心が有った訳でもない。
只シンプルに、本当にシンプルに、来週転校していくと言う〇枝に声を掛けてしまっただけだ。
ふと漏らした言葉の重さに、口に出してから気が付いてしまった。
転勤族の父親の勤めの関係で、これまでも何度も転校を繰り返して来たと言う〇枝。
「いつものことだからもう慣れっこだよ」
笑顔で言うその口ぶりが強がりだと分からないほど子供でもないのに不用意な発言をしてしまう自分の幼稚さ。自責の念が溢れ出す。
音もたてずにむせび泣く〇枝に掛ける言葉もあるはずがない。
突っ伏した〇枝の背中が小刻みに震えている。心臓が痛い。
「みんな〇枝と一緒に卒業したかったからさ」
俺を睨んだ女子がすかさずフォローを入れてくれる。
後ろから〇枝の肩に手を置き優しく揺すって声を掛けてくれた女子に頭を下げつつ〇枝に言葉を繋ぐ。
「女子高生が独りで残れるはず無いのは重々分かってるんだけどさ…」
「淋しいものは淋しいんだよ」
不用意な発言のお詫びになるとも思わないが心情を吐露して頭を下げる。
「まだ今週は一緒なんだしさ。思いで作んなくちゃね」
無理に笑顔で話しかける女子に感謝しつつ俺も言葉を繋ぐ。
「力仕事なら任せてくれ」おどけて力説する。
「力仕事ってwどんな思いで作るつもりなのよw」
弾けるように笑う女子たちに励まされて一緒に〇枝に笑いかける。
少しでも〇枝の気持ちが楽になるなら精いっぱい残りの学園生活道化を務めさせてもらおう。ひきつりそうになる笑顔を叱咤して笑顔で見送る覚悟を決める。笑いかける俺に〇枝も笑顔を返してくれる。
励まさなくちゃいけないこっちが励まされている。




