白線
「いっぺん曲がっちゃうと直すの大変なんだよね」トラックに白線を引く〇美の呟きに何気なく返事を返す。
「何が?ああ、最初の一本歪んじゃうと次々とずれが大きくなって修正大変になるよなー」
石灰の袋を抱え箒を引きずり、白線引きを引く〇美について行きながら実はこの時俺は彼女の話をまるで聞いていなかった。
「一週間で済むのかな?」
「?」
「〇男君の事だよ」
「謹慎か…」
クラスメートの〇男と隣のクラスの□子は先月駆け落ちをした。三日と経たずに連れ戻されたが。
〇男も□子も優等生だっただけに周囲は大騒ぎしたが、二人が戻って来ると不思議な事にその後は学校も両家の家族も騒ぐことなく、何故か□子はお咎めなしで〇男だけが一週間の謹慎処分。
そもそもなんで優等生の二人がと生徒の間では噂されたが友人達も本人達に聞くことも憚られたんだろう、急速に話題は沈静化していった。
「内申書に記載されちゃうよね」沈痛な面持ちで呟く〇美。
「やむにやまれぬ葛藤は有ったんだろうけどさー」途切れる白線に歩みを停めた〇美。「元に戻せるのかな…」
石灰の出てこない白線引きを恨めし気に見つめる〇美から白線引きを取り上げ持っていた箒を預ける。
「詰まりは取り除けるしさ」白線引きを地面にぶつけ石灰の詰まりを取り除くと白線引きを〇美に返し、箒を受け取る。
「例えコースがぶれても隣がコース外さなきゃ自然と落ち着くとこに落ち着くんじゃねぇのかな」
白線引きを抱えたまままんまるな目でこっちを見て立ち尽くす〇美を促して先へ進む。
「そうだよね。あたしたちまでぶれたら戻るものも戻らなくなっちゃうよね」
難しい事情は子供の俺らには分らないが、今は只真っすぐ前を見るだけだ。




