1
口の中に土の味が広がる。
泥臭さそのままのような味はジャリジャリとした砂だか土だかの食感も相まって大層な不快感を私にもたらした。美味いとかマズいとか、そんなレベルの話ではない。そもそも頭が口に入った土を食べ物として認識しようとしない。
その不快感から逃れるため上半身を起こそうと試みるも、途端に脇腹が熱くなり体を持ち上げようとしていた腕からがくんと力が抜ける。伴い、頬が地べたに叩きつけられる。が、それを遥かに超える痛みのためか不思議と頬に痛みは感じなかった。ただ、頬が地面に当たった感覚だけが伝わった。
その拍子に何かが急激に競り上がってきて、堪える間も無くそれを口から吐き出した。吐き出してから口の中に土の味に加えて生臭いような鉄の味が混じる。自分が吐血したのだと、理解したところで私にはどうしようもない。
馬鹿なことをした自覚くらいある。その証拠にただの紙切れになった札が目の前に落ちている。
正しいことをした。でも後悔はしている。未練なんてそれこそ腐るほどある。奥歯を噛み締め、爪が掌に食い込むほど強く拳を握り締めた。恐らく私は死ぬだろう。奇跡でも起きない限り助からない。自分の腕一本持ち上げられない状態で、どうやって、どうして、助かるというんだ。
「ふむ、辛そうだな」
そんな中、穏やかな声で話し掛けてくるコイツは目の付け所が可笑しいんじゃないだろうか。いや、可笑しいのは頭かもしれない。どう控えめに見ても辛いとかそんな次元じゃない状態なのに、一体全体どうしてそんなのんきな台詞が出てくるんだ。ひょっとして目の付け所云々の前に、そもそも目が付いていないんじゃないだろうか。なるほど、納得だ。節穴なのだ。コイツの眼孔に入っているキラキラと揺れる真っ赤な眼球はきっとガラス球に違いない。
「っ……れ、の…」
誰のせいだと思ってる。そう言うはずが凡そそうとは聞き取れない声が出た。
コイツの所為だ。そうだとも。誰が何と言おうと、私がこうして地べたに突っ伏しているのは大体コイツの所為だ。
私がこんな状態になった今も尚、コイツは楽しそうに笑っている。端麗な容姿でにいっと口元に綺麗な弧を描き、重傷者を目の前にして如何なものかと詰め寄りたくなるような美しい笑みを浮かべている。
理不尽だ。私が腹を掻っ捌かれてのたうっているというのに、なんで無傷のコイツに笑われながら見下ろされなければならないんだ。一体コイツは何様のつもりだ。ああ、そういえば神様扱いされていたんだったな。その所為か。
一体どうして、どこで何を間違えて、こんな奴と巡り会ってしまったのだろうか。