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エピローグ


 満月の綺麗な夜、ラインは屋敷の玄関でサキを待っていた。もうそろそろ時間、危ないんじゃないかな……と思ったところで、ヒールの音が遠くから聞こえた。サキが慌てて走ってくるのが見える。


「ごめん、ライン、お待たせ」


 黒と紫色のドレスに身を包んだサキが、ラインの前に現れる。今日は珍しく、長い髪を高い位置でひとつに結んでいた。紫色の髪飾りが、屋敷内の照明の光を受けてきらりと光る。彼女の綺麗な姿を見て、ラインは目を細めた。


「社長、お綺麗ですよ」

「ふざけて社長って呼ぶのはやめてって言ったでしょ、ライン!」

「はは、その反応が可愛らしくて、つい」


 サキはもう、と眉間にしわを寄せる。その後、左手につけている銀色の時計を一瞥し、急がなきゃ、と目を丸くした。


「遅れちゃう。あ、そうだ。今日は多分そんなに食事できないと思うのよね……ファインにそれだけ伝えに行くわ。ちょっと待ってて」


 はい、とラインが微笑むと、すぐに戻るからと残してサキはキッチンの方に駆けていった。彼女の背中を見て、ふふ、とラインは声を漏らす。本当に、元気になられてよかった。

 表情が戻り、晴れて表舞台に堂々と登場できるようになったサキは、真実が明かされたときこそ騒がれたが、三カ月も経つと落ち着いた。公表後四カ月の今は、サキがパーティーに行っても、参加者からの質問攻めにあったりはしなくなっていた。


「今日はサキ様のボディガード、ライン兄さんなんですね」


 背後から声をかけられ、わっとラインは驚く。振り向くと、相変わらず黒づくめのヤツキがにこにこと笑っていた。


「パーティーには大抵ボスが行っていたと思うんですが」

「俺だと目立っちゃうからね」

「しゃあしゃあと」


 ヤツキは笑って、玄関の扉に目をやった。


「今日はデートでしたっけね」

「そ、アクルが前々から予約していたいい席らしいよ。デートの予定がたった後に、サキ様のパーティー参加が決まった、と。ボスは随分悩んでたけど、サキ様が行ってやんなさいよって言ってくださったみたいで」

「ラインさんが女性に手を出さなきゃいいんですよ?」

「今日は俺、仕事モードだから平気だって」

「信じられないなぁ、いつぞやも婚約問題を解消しに行ったと思ったら、その女性をうっかり惚れさせそうになってたりしたじゃないですか」

「おんなじこと、アニータとギルにも言われたよ」


 ラインが苦笑する。ほらやっぱりね、とヤツキは笑った。


「ま、サキ様がらみですから、きっと何もしないんでしょうけど」

「あ。そうか、そう言えばいいのか」

「次から使ってくださいね」


 じゃぁ、と軽く頭を下げ、ヤツキは扉の方へ駆けていった。ラインが手を振る。


「行ってらっしゃい、気をつけて」

「行ってきます」


 ヤツキが外に出るのと入れ違いに、今度はルークが現れた。相変わらずの白衣姿で、目元が少し寝むそうだ。


「お、めかしこんで。色男だな」

「ルーク。今日はパーティーなんだよ」

「女性に手出しはするなよ」


 もう、とラインが天井を仰ぐ。その反応を見て、ルークは他の人にも言われたのか、と苦笑した。


「言われ飽きた」

「飽きる方が悪いな」

「ライン、お待たせ!」


 サキが駆けてきた。まとめた髪が少し乱れている。ラインはそっと手を伸ばし、傾いた髪飾りを直した。


「ありがと、ライン。ねぇルーク、アズムは寝てる?」


 サキの問いに、ルークは肩をすくませた。


「寝ろとは言ってますが、聞きませんね。もう少しで良い実験結果が出るからの一点張りで」

「あなたが言っても聞かないのならそうとうね……やり過ぎないようにだけは、よろしくね」

「大丈夫です、俺も医者ですので」


 そうね、とサキは笑う。


「そうそう、ファインからきいたんだけど、ミクロとマクロ、それにニールは、トレーニングのしすぎで食事中に爆睡したみたいよ」

「明日筋肉痛になったら、俺がしっかり診てやります」

「そうね、それもよろしく。じゃ、行ってくるわね。ライン、行きましょ」

「行ってらっしゃい」


 ルークが軽く手を振ると、サキも笑顔で手を振り返した。扉をラインが押し、出る間際にもう一度サキが手を振った。扉がゆっくりと閉まる。ルークは、それを見送ると、小さな笑みを浮かべた。


「楽しそうで、何よりだ」


 と、そこで携帯に着信が入る。画面を見ると、ユーナギからだ。電話に出ると、ユーナギの困ったような声が聞こえた。詳しい内容を聞くと、なるほど、それは困るわけだ、とルークも納得する。


「どうしましょうね……」


 ルークが呟くと、ほんとに、とユーナギがさらに困ったような声で返事をしてきた。


「ボスとアクル、すぐには帰って……?」

「来ないですね、というかさっき出たばかりです」


 うーん、とルークは唸った後、取りあえず俺が行きます、と言って電話を切った。

 外に出ると、冷たい夜風が頬を撫でた。月が明るい。


「……もし邪魔することになったらごめん、アクル」


 行って、ルークは大股で歩き出した。門の向こうに、人影が見える。


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