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さすがに言いにくいのか、男は困ったようにユーナギを見た。ユーナギは静かに笑顔を返すだけだ。ここで彼が答えないと意味がない。彼が答えて初めて、ボスは来客の本心を垣間見ることが出来るのだ。
「……カードを持ってきました」
来客は静かにカードをボスに手渡した。おう、とボスは受け取ると、それで? と門越しの首をかしげた。
「ここに来れば、その……ご飯を頂けると聞いて」
その言葉に、ボスはきょとんとしていた。後ろで黙って聞いていたアクルも、思わずえっと声を上げる。
「なんだ、腹減ってるのか」
「……はい、頼るあても無くて、毎日なんとか食いつないでるんですけど」
ユーナギはちらり、とボスを盗み見た。同タイミングで、ボスもユーナギを見ていた。ボスはひとつ頷くと「開けてやってくれ」と言った。なるほど、本当か、とユーナギは頷く。
ボスは、来客がいる際は必ずこうして最初に直接会って質問することにしている。そうすることで、相手が本当のことを言っているのかいないのかが分かるからだ。
来客の中には、ここでボスに嘘がばれ、追い返された者や、無理やりユーナギの部屋を通じて入ってこようとしてくる者もいた。
ユーナギは部屋に入り、ふうとひとつ息をつく。ちらりと見るのは、壁に立てかけられた武器だ――槍に薙刀、長鎌など、柄の長い武器が数種類置いてあった。この部屋を通じて入ろうとする物は、ユーナギが全員、これらの武器で懲らしめていた。最初は古い槍を一つ置いているだけだったが、エストレージャのメンバーが長い武器を見つけては置いて行くため、気がつくとその数は十数本になり、今ではちょっとした展示場のようになってしまっている。
ユーナギは、その武器から目をそらすと、部屋の壁のある場所に手を置き、ぐいと押しこんだ。すると、壁の一部が静かにへこんだ。手を離すと、ぱかんと内側に壁のへこんだ部分が開く。そこには、小さなボタンがいくつか並んでいる。ユーナギは一番使う青いボタンを一度押した。門がゆっくりと開く音がする。ユーナギは開いた壁をそっと戻すと、門の見える窓に歩み寄った。
門が開くとすぐに、ボスが手招きで来客を呼んだ。最初は来客も戸惑っていたようだが、早くしろよ腹がへってるんだろ、と急かされ、ゆっくりと門をくぐって行った。
「ありがとな、ユーナギ」
去り際に、レイカがユーナギに向かって手を上げた。上げ返すと、来客も静かに頭を下げた。
本当に腹が減っていたんだな、とユーナギはぼんやりとそんなことを考えながら、帽子をとり、上着を脱いだ。丁寧にもとあった場所にかけなおすと、折り紙を踏みながら、机に戻る。
折り紙をすぐにでも折り始めたいが、まだ仕事が残っている。鼻歌交じりで引き出しを開け、そこからペンと紙を取り出した。
一番上に「ボスへ」と書く。それからすぐ横に「J-322の詳細」だ。
用件だけ手短に書き、最後にサインを書くと、ユーナギは電話のすぐ横にある「伝書鳩」に歩いて行った。この機械もまた、ギャンの作った代物だ。エストレージャ専用のファックスのようなものだが、なかなか洒落たデザインになっていて、ユーナギは気に入っている。
紙を挿入し、ボスの部屋のボタンを押して送信だ、紙が壁にある穴に吸い込まれていき、下の穴からゆっくりと出てくる。最後にクルックー、と鳩の鳴き声がした。送信完了だ。
「任務完了」
ユーナギは鼻歌を歌いながら、ポケットに入っているライターを取り出し、その紙を燃やした。証拠隠滅は大切なことだ。
機嫌のよいユーナギは、机に座りなおすと、うーんと腕を組んだ。机の上に、折りかけの折り紙が置いてある。
「……何を作ろうとしていたんだっけな」
しばらく考えたが思い出せないため、ユーナギは折りかけの折り紙を開き、真四角の状態に戻した。白い紙だ。星でも作ろうか、とユーナギは静かに頷いた。