17-2
アクルの声が聞こえたと同時に、マクロは机の下から飛び出し、窓を思い切りよく開けた。左手にはディーディーの手が握られている。
ディーディーは、何が起こるのかよく分かっていなかった。それでも、迷いなくマクロについて行った。信じてついて来いと言われたのだ。自分より何年も年下の、少女たちに。
背後で扉が今にも壊れそうな音をしていたが、ディーディーは顔をあげ、マクロだけを見ていた。
マクロは、開いた窓から、身を乗り出し、空を飛ぶかのように軽々と落っこちて行った。
「続いて!」
ミクロが叫ぶ。ディーディーは歯を食いしばると、三階だ、死にはしないだろうと腹をくくり、窓の外へとその大きな体を投げ出した。
その瞬間、ドアが限界だと叫ぶように大きな音を立てて壊れた。
ミクロは、ドレスを翻し、すぐにマクロが先ほど投げたものと同じ形の物を、ドアに向かって放り投げた。
ドアの向こうにいた人物と目が合った。ミクロは笑顔を浮かべ、残念、と呟き、窓に腰かけた。丸い発煙弾が白い煙を出すのを確認し――混乱している人達を見つめながら、くるりと一回転し、まっさかさまに落ちて行った。
数秒の浮遊感の後、ぼすん、とミクロは背中から柔らかい場所に着地した。
「背中からなんて、危ないな」
と覗きこんだのは、ニールだ。
「信じてたもん」
にかっとミクロが笑うと、ニールもそれに応えるようににやりと笑った。
「立てる?」
「少し怖かった」
そりゃそうだ、とニールは苦笑し、手を差し出した。その手を握り、ミクロはよいしょと上半身を起こす。ビニールでできたふかふかのクッションはとても柔らかく、そのうえで立ちあがることは出来なさそうだった。
どうやって降りようと思っていたところで、ふわりと体が浮いた。後ろを振り向くと、お疲れ様、とラインが笑っていた。
「間に合ってよかった。さぁ、一緒に救護班のとこに行こう」
「ありがとうございました」
「俺たちは、このクッションを窓の下に設置しただけ。三人ともお疲れ様」
ミクロを降ろし、さぁ行くよ、とラインが走りだした。それに続き、皆も出口へ向けて全速力で走る。
「ギャンさんの発明にはお世話になりっぱなしですね」
きゃらきゃらとマクロが笑った。
「パターンD成功、救護班までの道のりは」
アクルの声が、全員の耳元に響いた。全てを言う前に、「もうアクルさんのサポートはいらないでーす!」とミクロが叫ぶ。
「これだけいれば百人力!」
ミクロが拳を突き上げ、そのまま目の前から現れた敵を指差した。
「確かに」
ニールがにやりと笑うと、ミクロに命じられたように、走る速度を速め、その敵に素早く近付いた。
見た目はひ弱な少年が、そんな瞬発力を見せるとは思っていなかったのだろう。銃を片手に持っていた男性は、驚いたように目を見開き、ニールに向かって発砲した。ニールはそれをすいすいと避けながら、あっという間に距離を詰め――男の顎に、回し蹴りを繰り出した。
「こいつ!」
傍にいた女性が、ニールに向かって蹴りを入れる。ニールは冷静にそれを避けると、女性に攻撃を仕掛けようとした。しかし、その必要は無かった。
長い足が、女性の足をはらい、女性が後ろに体重を崩した。その女性をまるで助けるかのように受け止めたラインは、にこりと笑いかけ、ごめんね、と呟いた。受け止めた方の手では無い方の手に、銃が握られている。腹にそれを押しつけると、女性は白目をむいて気絶した。
「あ、勝手に気絶してくれた」
ラッキーとラインは笑うと、その女性を優しく地面に置き、すぐそばまで近寄ってきていた男性に容赦ない蹴りを入れた。顔面を蹴られた男性は、歯を折りながら後ろに吹っ飛んだ。
「男性には容赦ない……」
「女性の顔は傷つけないだけだよ。手と足もなるべくね」
ラインとニールは、後ろからついてくるミクロとマクロ、ディーディーの道を開けるかのように、つぎつぎと敵をなぎ倒していった。
「―――お強い」
ディーディーが、あんぐりと口を開けた。
「ね、仲間がいると心強いでしょ!」