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1-3

 来客は憔悴し切った様子で、ぼそぼそと用件を述べた。

「ここに来たら――飯が食わせてもらえると、聞いたんだ」


 意外な方向からの用件に、ユーナギはきょとんとした。

 そんな理由か? それとも嘘か――いや、それはボスが「判断」することだ。もし本当だったら、と思うと、少しおかしい。ユーナギがくすりと笑うと、来客は不思議そうに顔を上げた。失礼、とユーナギは咳払いをする。


「少々お待ちください。屋敷のものを呼んでまいります」

 ユーナギはぺこりと頭を下げた。その後、部屋に入って壁にかかっている黒い受話器を取る。内線の番号を素早く押し、耳に受話器を当てたまま待つと、三回目のコールで相手は電話に出た。


「もしもし?」

 意外な声にユーナギは少し黙る。なぜこいつがボスの部屋にいる……?

「アクルか?」

 ユーナギが言うと、相手はそうですよーとのんきに返事をした。なんだ、ボスの部屋で何をしているんだ? 気になって仕方がないが、取りあえずは用件を伝えなければ。


「ボスはいるか?」

「はーい」

 いるならなぜ本人が取らないんだ、とユーナギがモヤモヤしている間に、受話器の向こう側は女性の声に代わる。


「ごめん、どした?」

「来客だよ」

 まじかよ! と電話の向こうで嬉しそうな声がする。いつもボスはそうだ。相手がどんな人だかなんて気にもせず、とにかく最初は喜ぶのだ。ユーナギはボスの反応に思わず微笑む。相変わらず楽しいお人だ。


「初めましての人か?」

 ボスが慌ただしく電話を変わると、嬉しそうにそう尋ねた。

「はい、おそらく」

「そっか! 楽しみだ、今行く、アクルも行く」

「二人きりの時間を邪魔してすまなかったね」

 からかうと、ボスは一瞬固まり、いいんだよと小さく言った。照れているのだろう。まったく、本当に可愛らしい。


「すぐ行く」


 来客の用件も聞かないまま、電話は切れた。きっとすぐに二人で走ってやって来るだろう。

 ユーナギは部屋を出ると、大人しく待っている男に声をかけた。


「すぐに来るそうです」

 はい、と男は小さく呟き、屋敷をじっと眺めていた。ユーナギは、その男の横顔を観察する。こうやって人を見て、図形を記憶するように特徴を見つけていくのは、ユーナギの仕事でも、癖でもあった。稀にだが、血筋まで当ててしまう事があり、自分でも驚く。パーツが似ていたり、雰囲気が似ていたりといったことはよくあることなのだ。


 重い二重に、高い鼻、透き通る髪の毛……自分の記憶の中で、こういった顔の人物は数人いるが、皆違う、やはり初対面だ。今のところ、親族も見つけ出せない。

 そうやって、来客は屋敷を見、ユーナギはその彼を見て時間を潰していた。すぐに、屋敷の大きな扉が開き、中から二人の人物が慌ただしく現れた。


 一人は、白いスーツに身を包んだ女性、エストレージャのボスであるレイカだった。髪の毛も、スーツに合わせたように白い。毛先だけは黒く、ウェーブがかったその髪の毛は頭のてっぺんで一つに結ばれている。走りながら、彼女はトレードマークのサングラスをかけた。かなり高いピンヒールを履いているのに、速度は全速力だ。


 その後ろを走っているのは、灰色の目をした男性だった。ボスの右腕のアクルだ。耳にはピアスをいくつかつけており、黒いスーツで身をまとっている。髪の色は、女性と同じ白色に、前髪だけが黒色だ。

 全速力で走ってくる姿に、少し来客は驚いているようだった。そりゃあそうだと、ユーナギは苦笑いを浮かべる。

 すぐに門に辿りついたボスは、門の手前で急激に止まり、どうもと来客に笑いかけた。来客は無表情のままだ。


「こんにちは、ご用件は?」

「……あの……えっと」



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