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15-2

 アクルは、ギャンに作戦の詳細を伝えた後、今度は自室にアニータとギル、ライン、ミクロとマクロ、そしてニール、ユーナギを呼びだした。


「作戦確定?」


 ラインは疲れているようだったが、それでもにこりと笑って訊ねた。アクルの部屋に座る場所はほとんど無かったが、皆ソファやいすに腰掛けている。


「はい、確定です。といっても、パターンはいろいろあるんですけど……終着点が一緒というか」

「どういうこと?」


 間髪いれずに、ラインが再度質問を投げかける。


「つまり……うーん。そうですね、作戦の最後から説明します」


 アクルはそういった前置きをした後、全員に自分の考えを伝えた。

 反応は、アクルの予想していた通りのものだった。


「アクルが危険すぎるだろ」


 ギルがあきれたように言う。


「でも、そうしないとお前の気がすまないんだな?」


 ギルの言葉に、あぁ、そういうこと、とラインも微笑んだ。その微笑みから逃げるように、まぁ、とアクルは静かに目をそらす。


「だから無理やりでも、そういう形にしたいわけね。素直に言えばいいじゃない」

「言えませんよ恥ずかしい! いや、言っても、言ってもいいですけど、そ、そんな変なおぜん立てされたら!」


 アクルの反応を見て、ユーナギとアニータがあぁ、と頷く。


「そういうことかい、アクル」


 ユーナギは、ギャンと同じように、自分の息子に対して微笑んでいるような、柔らかい笑みを見せた。ぐう、とアクルはうなることしかできない。


「……やっと?」


 アニータが、ギルに小さく聞いた。うん、とギルは頷くだけだったが、それだけの動作であぁそう、とアニータも納得したようだった。さすがカップル、とアクルは思ってしまい、そんな場合じゃないだろと思わず頭を抱える。


「えぇっと……すみません」

「作戦は分かったんですけど」

「それ以外が分からないと言うか」

「ついて行けていないのは、おかしいことでしょうか……」


 ミクロとマクロが、申し訳なさそうに挙手をした。そんな二人の様子を見て、ラインが微笑する。


「いや、おかしくないよ、ミクロとマクロはまだ13歳だもん、ね、アクル、説明してあげてよ」

「ラインさん、面白がらないでくださいよ!」

「最近辛いことばっかりだったんだもん。そこに楽しいニュースだろ」

「楽しいとかいいやがりましたよねラインさん」

「ごめん、面白いニュース」

「ほらやっぱり面白がってる!」

「ほら早く、自分の口から言いなよ」

「うぐう……」


 俺は言わないよ、とラインは微笑みながらそっぽを向いた。助けを求めるように、アクルがギルを見ると、ギルは肩をすくめるだけだ。隣のアニータが、口の動きだけでアクルにメッセージを送る。その口元は確実に「ばーか」と言っており、アクルは思わず立ち上がった。


「悪かったな馬鹿で! そうだよ今さら俺はボスが好きだってことに気がつい……!」


 はっ、と双子は大きく息を飲んだ。アクルも同タイミングではっと息を飲む。二人が同時に息を飲んだため、その音はとてつもなく大きくなる。

 少しの沈黙。


「あ……」

「お……」

「ミクロ、マクロ、言葉を失うなよ恥ずかしい」

「おっそ……」

「やっと……」

「ぐう……」


 自分より十以上も年下の子どもに、それを言われてしまったら、何も言い返せない。アクルは静かに座ると、まぁ、そう言う事だよと投げやりに言った。


「だから俺がボスを助けたいんですーそういうことですー」

「おめでとうございますアクルさん……」

「がんばってくださいねアクルさん……」

「目が泳いでるぞミクロマクロ、こら、俺を見て見ろ、なんだ、おい、二人でニールを挟んでひそひそ話をするな……って、ニール」


 アクルは、ふう、と小さくため息をついた。

 ミクロとマクロの間に座っていたニールは、こんな雰囲気になってしまった部屋でもなお、俯いたまま、表情を曇らせている。

 アクルは立ち上がり、ニールの目の前まで歩み寄ると、膝を折り、ニールよりさらに低い視線から、彼に話しかけた。


「どうしたよ、浮かない顔して」

「……ボスは……助かりますか」


 限界だったのだろう。ニールは、目からぽろぽろと涙を流しはじめた。その涙は、頬を伝わず、ぽたぽたと下に落ちていく。

 ニールの小さな手は、膝の上でぎゅっと握りしめられていた。その拳を、アクルの手が包み込み、しっかりと握りしめる。


「当たり前だろ」

「僕の……せいで……」

「あのなぁ、まだそんなこと言ってるのか。サキ様もおっしゃっていただろ、お前は自分のお母さんと、エストレージャ、両方助けただろうが」

「でも……でも……」


 言葉にできない気持ちが、ニールの中には渦巻いているのかもしれない、とアクルは思った。小さな手は、アクルの手の中で震えている。でも、の後に続く言葉は、どうやらなさそうだ。


「誰もニールを責めない。俺だってニール、お前を責めない。少しでも、お前に対して怒ってたり、お前に対して不信感があったりしたら、作戦発表の重要なこの場所なんかには呼ばない。ニールにも協力してほしい、なんて言わない。分かるだろ。俺はお前を信用してる」


 アクルはニールの手をさらに強く握った。


「頼むから、信用してくれ、ニール」

「…………ごめんなさい……」

「ニール、お前は何も悪いことしてないって」


 アクルは、そっとニールを抱きしめた。


「協力してくれ、頼むよ。ニールの戦闘能力、俺、しっかり計算の中に入れてるんだ。いなくなったら、困るんだ」


 ここ一日、二日で、ニールは一体何度泣いたのだろう。アクルは、小さな体を抱きしめた。細い体は、その中にたくさんの後悔や、自己嫌悪感や、苦しさを含んでいた。

 ニールは、泣き続けた。泣いて、泣いて、それが少しでも外に出ればいいと、アクルは思った。



「……ごめんなさい、もう、大丈夫です」


 数分後、ニールはそう言って、顔をしかめた。目は赤いが、涙は流れていない。


「よし」


 アクルはにかっと笑うと、元いた場所に戻った。


「じゃぁ、作戦の詳細を説明する」


「何でもするよー」


 アニータが笑い


「言っとくけど俺の刀は威嚇用だからな」



 ギルが眉をひそめる。


「今度、刀の使い方を一から教えなきゃな」


 ユーナギが苦笑し、ギルはうう、と唸った。


「覚悟はできています!」


 マクロが拳を突き上げ


「どんとこいです!」


 ミクロがその拳で自分の胸を叩く。


「僕も……僕も、何でもします」


 そしてニールが、凛とした眼差しで、誓うように言った。うん、とアクルはそれに頷いて答える。


「それで、作戦は何パターンあるの?」


 ラインが身を乗り出し、アクルに訊いた。


「十五、全部覚えてもらうので、よろしく」


 アクルの返答に、さすが、多い! と皆が天井を仰いだのは、言うまでも無い。


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