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11-2

 アクルの発言に、ふんとギルは笑う。


「残念ながら確信があったもんでね。金額は俺の予想とほぼぴたりだった。正直もの凄く高いけど、それだけの価値があるんだよ、この情報には」

「そうかもしれないですね」


 にやり、と笑うディーディーは、どこか謎めいていたが、アクルには強い味方にも思えた。


「なんでも質問してください、質問していただいたことにしか答えませんので、あしからず」

「アクルも聞きたいことがあったら聞いてくれよ」


 ギルはアクルにそう言うと、ジャケットの内ポケットからメモ用紙とペンを取りだした。


「じゃぁまずは、リッツからの依頼について聞きたい。誰からどんな依頼をされて、どうして金を持って逃げたのか」

「なんだ、元から御存じだったのですね」


 ふ、とディーディーは笑うと、懐かしいですねと言って自分の髪を手でくるくるといじり始めた。


「リッツの参謀、ティラという女性から依頼を受けました」


 懐かしい名だな、とアクルは思い返す。ラインが直接接触した、金髪に緑色の目をもつ、気の強そうな女性だ。


「随分と若い女性でしたけどね、エストレージャからニールという少年を盗んできてほしいと言われました。今すぐにではなく、こちらがゴーサインを出してからだと……タイミングが難しいから、長い付き合いになるかもしれない、と言っていましたよ。なぜだかは聞いても教えてくれませんでしたが……」


 アクルは、ディーディーの言葉に静かに顔をしかめた。成功しなかったからよかったものの、今でも思い返すと辛くなる出来事だ。

 リッツ側は、ニールの「朝起きると破壊衝動に襲われる」という発作の解明をエストレージャに期待していた。エストレージャがニールの発作の原因や対処法を解明したうえで、ディーディーに攫わせようと考えていたのだ。

 そこまで思い出したところで、あ、とアクルは顔を挙げた。どうした? とギルがアクルの方を向く。


「ティラは、リイビーノに有能な人材を送るパイプの役割をしていた、そうだろ? ほら、ギルがさっき言ってた、身寄りのない子供を集めて使えそうな人材を本部に送っているかもって仮説……あってるんだ」

「あ……そうだ、そうだな」


 ギルは納得したように頷いた。ティラのことをもっと考えていれば、ギルの仮説に対してすぐにぴんとこれたはずなのに、とアクルは頭をかきむしった。


「ティラは俺たちが思ってたよりも、かなりリイビーノの上層部に近いところにいたんだ。きっと、優秀な人材を送れば送るほど、リイビーノの中で良い役職につけるんだろう」


 アクルは自分の考えを整理するようにぶつぶつと言った後、ちらりとディーディーを見た。彼は相変わらずにやにやと笑ったまま、二人の質問を待っている。


「ギル、話が前後するようならごめん、でも俺はディーディーに聞いておきたい。ティラを騙して逃げたお前は、どうしてリイビーノ側から何の制裁も受けてないんだ? リッツがいくら上手く隠したって、いつかはばれることだろ」


 アクルの質問に、簡単ですよとディーディーは楽しそうに返事をする。


「私が、参謀の彼女、ティラとかいうその人よりも偉い人物と親しかったためです」

「……どういうことか、詳しく言ってくれ」

「そうですね、話しは前後しませんよ。先ほどの続きになります」


 三つ編みを指でいじりながら、ディーディーは話を続けた。


「結構な報酬を頂けるので、私はリッツとの契約にサインをしました。盗むにはまず相手のことを知らねばなりません、エストレージャについて、一夜かけてじっくり調査させていただきましたが……驚きました。情報で溢れかえっていて、何が本当か分からないのです。おそらくは、あなたの仕業なのでしょうけど」


 言って、ディーディーはギルに笑いかけた。ギルは無表情で、続けてくれと答えただけだ。つまらない、と言いたげにディーディーは肩をすくめる。


「屋敷に行けば何でもしてくれるという情報から、裏で危ないものを売っているために近づかない方がいいというもの、屋敷に住んでいるのではなく奴隷として働かされている人しかおらず、行ったら最後、死ぬまでこき使われるなんて物騒な者もありました……が、そんな中、目撃情報を手に入れたのです。多分、あなたのことですよ、アクルさん」

「俺?」

「そうです、それと、白髪の女性も一緒だったはずです。朝市で見かけたと聞きました」


 その言葉で、アクルはピンと来た。朝一、リンゴを大量に購入したあの日だ。ボスと二人で出掛けていた。人込みで溢れる中、確かネックレスを盗んだ奴がいた……ボスが、アクルの肩の上に乗って、遠くにいる犯人に向かって発砲したのだ。髪の短い青年だ。招待状を渡したのを覚えている。


「思い出しましたか?」


 ディーディーの問いかけに、あぁ、とアクルは小さく頷いた。


「賑わっていましたからね、たくさんの人がいたんですよ。その中に、私の友人もいましてね、本当に偶然なのですが――私に教えてくれたのです。あなたではなく、一緒にいた女性は、随分と凄い銃使いだったと聞きました。遠くからピンポイントで射撃したそうですね、それも人込みの中で」

「……間違いない、それは俺たちだ」

「まさか本人に会えるとは思っていませんでしたが……とにかく、私はそこで考えたのです。エストレージャは宝の山なのではないか……エストレージャには、特殊な人材がたくさんいるのではないか?」


 ディーディーの言葉に、アクルとギルは同時にはっと息を飲んだ。分かりましたか? とディーディーはにやりと笑う。


「繰り返すようですが、ここでもう一度言いましょう。私はリッツと繋がる前から、リイビーノのかなり上部とつながりがあったのです」


 なるほど、とアクルは小さく言った。おそらくギルも同じように、なるほどと思っているに違いないとアクルは思っていた。

 まるでパズルのピースの塊と塊が繋がったような感覚に陥る。リッツと、リイビーノと、ディーディーとエストレージャが、アクルの頭の中で、奇妙に歪んで繋がった。


「本業が人攫いですからね、様々な人に出会います。時々凄い能力の持ち主と出会う――そう、リイビーノが求めているような人と。そういう時、私はリイビーノにその人を紹介しているのです。情報は金に代わりますからね」

「それで、リイビーノにエストレージャには有望な人材がたくさんいるかもしれない、という情報を流した」

「その通りです、ギルバートさん。私はリイビーノ側にそのことを伝えました。リイビーノ側は、この情報を高く買ってくれましたよ……まぁ、いつも私が情報を流していますから、信頼あっての値段でしたけどね。

 リッツにリイビーノと私とのつながりを察されないよう、リッツから前払いで料金を頂く、という遠回しな金の支払い方法を取らせていただきました。リッツの金も、元をたどればリイビーノの金ですからね」


 ヤツキの報告で、ティラがディーディーに逃げられたことに対し激昂していたという情報があった。そこから、リッツ側がニールを取り戻そうとしていることが予測できたが、なるほど裏ではそう言う取引がなされていたのか、とギルとアクルは納得する。


「そうして、リイビーノはリッツをあえて放置した……ニールを取り戻すために、彼らは俺たちと接触する俺たちの情報収集が、やはり本当の目的だったのか……」


 アクルは眉間にしわを寄せた。リイビーノは、その後侵入に成功したリッツの親玉であるウラウをつかまえ、彼に情報を吐かせたのだ。

 アクルと同じように眉間にしわを寄せ、しかしにやりと笑いながら、そうですねとディーディーは返事をする。


「その後、リイビーノが何をしたかは知りませんが、エストレージャが私に接触してきたという事は、おそらくリイビーノのたくらみは成功したのでしょうね」

「……それは、関係ないだろう」


 アクルがぎろりと、ディーディーを睨みつける。

 ボスのことを、思った。何が、たくらみは成功した、だ。


「そうですか?」

「黙れよ」


 思わず立ち上がりそうになったアクルを、ギルが「やめろ」と静かに制した。


「返事のようなものですね」


 はは、とディーディーが笑う。くそ、こいつ、隙あらばこちらのことを探ろうとしてきやがって……アクルはいらつき、小さく舌打ちをした。落ち着けよ、とギルがとなりからアクルをたしなめる。そうして、アクルとは対照的にとても冷静なまま、ギルはディーディーに次の質問をした。


「リイビーノのどこまで知ってる?」

「どこまで、とは?」

「そうだな……俺たちは、リイビーノが人貸しをしているという事しか知らない。まずは人物だ。トップとも親交があるのか?」

「ビジネスフレンドです、若い男性ですよ。名前はローシュ」

「なっ……!」


 ギルとアクルは顔を見合わせた。


「嘘だろ! あいつはそんな風じゃなった」



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