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7-2

「……人貸し」


 物騒な単語に、アクルは表情を曇らせる。そうだ、とギルは念を押すように頷いた。


「表立ってない、表に出られないような人物や組織に人を貸しているみたいだ。奴隷とは違う、あくまで人を貸す商売みたいだが、詳しくはまだ分かってない。人貸しって情報しか浮かばず、他は一切隠している……メンバーも分からないんだ」


 ギルは、不満そうに顔をしかめた。ギルが介入できないのなら、そうとうセキュリティはしっかりしているんだろうな、とアクルは察した。徹底した秘密主義なのだろう。人貸しといういかにも危険そうなことをしている組織だ、それはそうか、とアクルはひとり、納得する。


「ここからはおそらくの話だが、リッツで身寄りのないような子どもたちを集め、そこから使えそうなのを本部であるリイビーノに送ってる、といった仕組みだろう」

「でもまぁ、おそらくそうだな。うえ、悪趣味」


 アクルは舌を出した。まったく、とギルも頷く。


「だから、ボスも攫われたわけだ」

「――だろうな」


 アクルの表情が一瞬にして真剣なものに戻る。

 人貸しと聞いた瞬間に、ボスの攫われた理由を、アクルは瞬時に理解することができていた。


「嘘の分かる人、貸し出し要素は十分だってわけか、くそ」

「そう。おそらく情報はウラウから漏れたんだろうな」

「それ以外考えられない……」


 言って、ん? とアクルは首をかしげる。ギルは黙ってその様子を見ていた。煙を一度吐く――あれ?


「なんかおかしくね?」

「あぁ……なーんだ」


 と、低い声でギルが言う。ちっ、とアクルは舌打ちを返した。


「何だよ、なぞなぞはやめろ、早く言えよ」

「リイビーノ側がどうやってウラウから招待状を貰ったかってことだ」


 ギルは傍に置いてあった灰皿に煙草を押しつけると、最後に白い息を吐きだし、続けた。


「組織の一角をつぶした責任を、ウラウが追求されるのは分かる。だが、ウラウがこちらの情報を全て漏らして、招待状までリイビーノ側にすんなりと渡してしまうのは、おかしいだろ」

「……どうせ、リイビーノからウラウは捨てられるから?」

「あぁ、責任問題でな。捨てられるか、過激な集団なら殺される、優しければ下っ端になる……どれにせよ、もうリイビーノはウラウを信用はしないだろう」

「だな。なら、ウラウはエストレージャの内部を知っているというアドバンテージを有効活用するはず」

「そう、そのアドバンテージは、組織のためにではなく、自分のために使おうとするだろう。困ったときにこの屋敷にくるもよし、エストレージャの情報を欲しがっている人に高値で情報を売るもよし」


 ふむ、とアクルは腕を組む。


「エストレージャの情報を売るから、俺の命を助けてくれってなったのかもよ?」


 アクルの言葉に、あいつの性格が最悪だったらな、とギルは顔をしかめた。


「それでも、招待状まで渡しちまうか?」

「……確かに、俺なら念のために取っておくな」

「だろ? この招待状がネックなんだよ。あいつにとってあれは切り札じゃなくて隠し札だろ。今後無一文の生活をするかもしれないんだからな」


 話が少し大きくなるが、とギルは二本目の煙草をくわえた。


「俺の推測を重ねた結果を言うぞ。――リイビーノ側は元々エストレージャに侵入する予定で、その方法を、一度エストレージャに入ったことのあるウラウから無理やり聞きだした」


 アクルはなんだって、と思わず声を荒げた。


「ここに――侵入する予定だった?」


 アクルの声が、低くなる。

 予定だった、だと?


「そうだ」


 ギルがあくまで俺の予想だがな、とつけたしながら、静かに頷く。


「いつから?」

「おそらく……ニールが盗まれた、そのときからだ」


 そんな、とアクルの口から小さく声が漏れる。


「そんなことって……あるかよ、なんだ、ウラウは泳がされてたのか? リイビーノがエストレージャに有能な人物がいるのを知っていて、内情を調べさせるために?」

「憶測だが。補足情報だと、リッツがニールをなんとか取り返そうとしていたのはリッツのためだと思っていたが、本当はリイビーノのため、というか貴重な人材がいなくなったら上層部に怒られるからだった、ということだ」

「ま……まてまて頭が痛い」


 アクルは煙草を消し、頭を押さえながら、必死に今までの情報を整理し始めた。


「つまりなんだ……リイビーノは、人貸し屋で、使える人材が欲しい。人材探しはリッツのような小さい集団を各地にばらまくことで行っていた」

「そうだ」

「で、あるリッツが大切な人材、つまりはニールを逃がしちまった。エストレージャにニールを取られたウラウの率いるあのリッツは、エストレージャに侵入することがリイビーノ側でも読めた。あえて出てこなかったのは、ニールを介してエストレージャと繋がろうともくろんだから?」

「あぁ、俺も同じ意見だ」

「エストレージャには有能そうな人がいそうだということが相手には分かっていた、どうやってエストレージャに入ればいいのか、エストレージャとは何なのか、リイビーノは知りたい。そこで、リイビーノはウラウ率いるリッツを泳がせた――ってつまりはこういうことか?」

「だな」


 んん? とアクルは眉を吊り上げ、首をかしげる。


「分かるけど分かんねえな……リイビーノは、もともとエストレージャに侵入するのが目的だったから、ウラウは捕まえられて、エストレージャに入る手段を教えろと言われて、招待状をリイビーノに渡しちまったんだよな」

「そうだな、それで、招待状の件はつじつまが合うだろう」

「だよな、じゃぁ……どうして、ニールがエストレージャに攫われたからって、エストレージャに有能な人がいるって分かったんだ……?」


 アクルの質問に、そうなんだよなぁとギルが天を仰ぐ。


「次はそこが、論理の飛躍だよなぁ」

「まぁなぁ」


 うーん、とギルは天井を向いたまま、ふうと天井めがけて煙草の煙を吐く。


「それがギルの分かんないこと、か」

「そう」

「基本的に、エストレージャは謎の集団で通してるもんなぁ」

「情報操作してるからな、俺が。情報流しまくって、何が正しいのかよく分からなくしてる、リイビーノとは真逆の方法だな。エストレージャを探れ、だったら分かるんだよ、エストレージャに有能な人がいるから、ってなるのがおかしい。でも探れ、だったら、招待状の件がなぁ……」


 エストレージャを探れ、という指示だったら、ウラウは嘘をつけたのに、ということだ。招待状がネック、というギルの言葉が頭の中でぐるぐると回っている。アクルはうーんとうなった。


「なぁ、第三者は?」


 アクルは、何気なくその言葉を呟いた。

 リイビーノがいて、リッツがいて、エストレージャがいて。今出てきている集団は、主にこの三つだ。

 リイビーノが「リッツを泳がせよう」と考えるように至ったのは、リッツのせいでも、エストレージャのせいでもなく、誰か他の人、もしくは集団のせいではないか、とアクルは考えたのだった。


「………………」


 アクルの発言に、ギルは天井を向いたまま黙ってしまった。右手に持っている煙草が、静かに煙をあげている。

 しばらくの沈黙の後、いや、ごめん、とアクルは謝った。


「なんとなく、思っただけだ」


 ギルはそれでも、無言だ。なんだこいつ、もう俺の話は聞いていないのか? とアクルは首をかしげる。なんだ、どうしたって言うんだ――沈黙を破ろうと、次の案を考えていたその時、そうだよ、とギルが小さくつぶやいた。


「あ?」

「アクル」


 ギルは上げていた首をぐいと前にもどし、それだよ、と煙草を持っている指でアクルを指した。反動で、床に灰が落ちるが、アクルは気にもしなかった。


「何だ?」

「思い出した。ディーディーだ」


 ギルが、真剣なまなざしで言った。ディーディー? とアクルは首をかしげる。


「人攫い専門の泥棒だろ?」


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