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5-2

 つっけんどんに、女医は言った。顎で指された椅子は、彼女の目の前にある。座ると、口を開けて、と言われた。

 それから、レイカは体のありとあらゆるところを調べられた。歯を調べて「何もしかけられていない」と言われ、初めてそういう診察か、と理解する。あらゆる機材を使い、体の内部や骨のいたるところまでチェックを受けたレイカは、十分と少しで診察を終えた。


「何もないわ」

「ありがとう、ヴァネッサ」


 ローシュは微笑んで、女医は肩をすくめた。


「相変わらずにこにこ、気持ちがこもってるんだかこもってないんだか」


 ふ、とローシュは笑うと、ぐいと彼女を引き寄せ、唐突にキスをした。レイカはぎょっとする。そう言う関係なら先に言え!

 しかし、よく見ると女医のヴァネッサもその行動には驚いているようで、みるみる耳まで赤くなっていった。レイカを無視した長いキスが終わると、つんけんとしていたヴァネッサは、まるで魂が抜かれたようにとろんとした表情を浮かべていた。


 レイカはまじまじとローシュを見る。なんだこいつは、どういった奴だ、こいつは。

 ローシュはレイカの視線に気がついたのか、レイカと目を合わせるとふふ、と小さく笑った。笑う意味が分からない。


「ローシュ」


 ヴァネッサがローシュの手を握ろうとするが、それをするりと避け、ローシュはそっとヴァネッサの頬にキスをした。挨拶であろうそのキスに、それでもヴァネッサはますます頬を赤く染めた。


「ありがとう、また来る」

 行こう、レイカ。言って彼はつかつかと歩き出した。また、とか弱い声が背後から聞こえる。スァンに加えて、ヴァネッサもまた、片想いをしているのだろうか。

 こいつ、ラインと同じような能力でも持っているのか?

 ――だから、考えるな。レイカはまた首を横に振り、どうも、と頭を下げてその部屋を出た。医療器具で並んでいる大きな部屋には誰もおらず、少し不気味だった。


「診察ごくろうさん」


 言って、ローシュはこっち、とその家の車庫までレイカを連れて言った。そこにあったのは、黒いシンプルな車だった。ローシュはポケットから鍵を出すと、車に向けた。機械音が鳴り、車のロックが解除される。


「おなか減った? ここから三十分ぐらいあるけど、どっかで飯食べる?」

「いや、大丈夫だ」

「あそ、なら行こうか」


 運転席に乗り込む前に「どこでもどうぞ?」とローシュは笑った。時々見せるその挑発的な態度が気に入らない。レイカは迷わず後部座席に乗り込んだ。随分と車内は香水臭い。女性物の香水の匂いだ。


「お前は女性にもてるのか?」


 思わずレイカが聞くと、あははとローシュは初めて乾いていない笑いをレイカによこした。


「もてるよ、さっきのヴァネッサも、スァンも、俺が助けてあげたからね」

「……お前のしていることを、聞けるか? もう、私には何もついていない」

「あぁ、そうだね」


 エンジンがかかる。車の発進と同時に、ローシュは教えてあげるよ、と機嫌のよい声で言った。


「レイカが入る組織はリイビーノ。貸し出し屋だよ、覚えておいてね」

「……貸し出し?」

「そそ、人貸しをしている。能力のある人を貸してあげるの、必要とされている現場にね」

「……人貸し……そうか」


 それとリッツはどういう関係にある? 考え始めたところで、心を呼んだかのようにローシュはレイカに言った。


「全部教えてあげるから、考えなくていいよ。君にはみっちり働いてもらうしね」

「……リイビーノ、何だそれは」

「人貸しを本業としてるんだ。リッツ、知ってるだろ? リイビーノの分家、子会社みたいなものだよ、リッツは全部で十五個あるね」


 子会社。

 そうか、そういう事か。レイカは黙って頷いた。

 二か月と少し前、ニールがまだ正式にエストレージャとして認められていないときに、ギルにリッツについて調べて貰ったことがあった。

 ただのやんちゃ集団だと思っていたリッツに、実は階層があることに、彼は気がついたのだ。集団の中に、明らかに下っ端の奴らから怯えられている人がいる、それがエリートだ、と彼は言っていた。

 しかし、エリートは二ケタ以上いた。多分、これらを統率しているトップが、その上にいる、と彼は予想した。

 加えて、たまり場となっている廃墟は実は購入されたものである、と言う事も調べていた。そのことを聞き、レイカは自分がどう思ったか――覚えている。


「案外大きな組織に手を出してしまったのかもしれない」


 そう思ったのだ。

 その後、調査を続けると言った彼を、アクルが止めたのだ、それ以上近付かなくても、もう作戦上は大丈夫だ、と。

 あの後ウラウが現れて、レイカは彼がリッツのリーダーだったのか、と納得していたのだが……今になって、さらにその上がいたことを明かされた。

 子どもとは言え、リッツには百人近くの人がいた。

 その集団が、さらに十五いて、それが子会社だと……?

 冷や汗が出る。


 リイビーノ。


 私の予想は当たっていたのだと、レイカは思う――「案外大きな組織」に、やはりエストレージャは手を出していたのだ。


「びっくりしてるね」

 からからとローシュは笑った。まぁな、とレイカは思わず答えてしまう。


「知らなかったんだね」

「あぁ……そこまで調べる前に、私たちは行動に移せたからな」

「みたいだね、ウラウから聞いたよ」

「……ウラウか」


 図体のでかい、猪突猛進の男だった。逃げようとしたところを捕まえた日が、やけに遠い日に感じる。


「あいつねぇ、逃げようとしたんだよねぇ、俺達からさ」


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