表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/78

4-4

「あ」


 カーテンが素早く開き、レイカは驚いて思わず後ろに飛びのいた。カーテンを開けた張本人は、本当に不安そうな顔でレイカを見ている。


「ねえぇ、このさぁ、服に盗聴器って仕掛けてるのぉ?」

「……仕掛けてない」

「本当ぅ?」

「あぁ」


 よかったぁ、と呟き、スァンはゆっくりとカーテンを閉めた。


「ローシュさんにぃ、嫌われるところだったぁ」

「嫌われる?」

「本当は、ここに来る人、盗聴器が仕掛けられているかもしれないから、服を燃やすまで、ローシュさんのしてることのヒントになるようなこと、何も言っちゃぁいけないのに、言っちゃった」


 ローシュさんはねぇ、お前のその力は、使えるよって教えてくれたよぉ。

 彼女がついさっき言っていた言葉を、レイカは思い出す。確かに、この言葉が彼のしていることのヒントになるかもしれない。


「……ローシュさん、好きなのぉ」

 とスァンは言って、はいぃと上着をレイカに手渡した。真黒の上着に、赤いネクタイだ。


「ネクタイぃ、調べたからぁ、持ってっていいよぉ」

「……どういう事だ?」


 受け取って、ネクタイの裏を確認する。これは、まぎれもなく先ほどまで自分がつけていたネクタイだった。タグを見ればわかる。随分と古びたそのタグは、それを長年愛用してつけていたことを物語っていた。


「それぇ、プレゼントで貰ったんでしょぉ?」

 意外な発言に、はっとレイカは息を飲む。

「……どうして」

「分かったかってぇ? 分かるよぉ、タグの後ろ見たもん」

「………………」


 タグの、後ろ?


 ネクタイの後ろについている、タグをひっくり返す。



「知らなかった」

 文字が、書いてある。

『ボスへ 初めてのプレゼント アクルより』

 ――彼がエストレージャに入ってから、初めての誕生日に貰ったプレゼントだ。

 知らなかった、こんなことを書いていたなんて。


「……やることが、きざなんだ」

 レイカが言うと、だろうねぇとスァンが笑った。

「あなたは、その人が恋人だったのぉ?」

「……片思いだ」

「じゃぁ、私と一緒ねぇ」


 ローシュさん、好きなのぉ。

 もう一度言って、スァンはえへへ、と可愛らしく笑った。

 レイカは、ネクタイを握り締めて、静かに泣いていた。


「――女の子は、着替えに時間がかかるんだよぉって、ローシュさんには説明してあげるよぉ」

「……すまない……本当に……知らなかった……ありがとう……」

「いいよぉ」


 言って、すぐにスァンは歌を歌い始めた。

 レイカの知らない歌だ。知らない言葉だった。


「スァン、何歌ってるの?」

「歌いながら服を選んでるのぉ!」


 外からしたローシュの声に、スァンは怒鳴って、その後慌ててばたばたとわざとらしい音を立てた。

 これがいいかなぁ、どれかなぁ。

 言いながら、歌を歌い続けた。

 泣き声を隠してくれているのかもしれない。

 気がついたレイカは、小さな声で呟いた。


「アクル……」



 瞼の奥に、彼の絶望的な表情が浮かんだ。

 最後に見た表情が、あんな表情だなんて。



 涙が次々とこぼれ、声を押し殺すのに必死だった。

「メイクもしようねぇ」

 スァンは歌と歌の間に、そんな言葉を挟みながら、静かに歌を歌い続けたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ