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4-3

「案内しろ」

「まっすぐで、取りあえずは」


 ローシュは後ろから身を乗り出し、よしよしとふざけたようにレイカの頭を撫でた。


「よくできました」

「黙ってくれないか」

「ねぇ、君の上司なんだよ、俺は」

「そもそもお前は何なんだよ」

「教えない」


 盗聴器が仕掛けられていたりするかもしれないからね、とローシュは笑った。


「車は途中で捨てるから。とりあえず全身着替えてもらうよ。買物ついでに、仕込まれているものを全て排除する。全身チェックもくまなくして、オーケーだったら晴れて仲間入りだよ……あ、そこ右ね、その信号の向こう」


 細い指で信号を指差しながら、ローシュは機嫌の好さそうな声でそう言った。


「エストレージャ側は弱みを握られているんだ。そんなことするはずないだろ」


 レイカの言葉に、いやいやとローシュは首を横にする。風になびくレイカの髪の毛をいじりながら、凄いですよねエストレージャは、と笑った。


「俺が知ってる限りでも、凄い人達がいるでしょ? 例えばアクルってのは数年前まで泥棒をしていたはずだよね。ギルバートってのもいるよね? 情報屋なんだろ? 有名だったらしいじゃない、というか今でも有名か。昔は嗅ぎ回り過ぎて、よく捕まってたりしたんだろ? いくら名前や姿を変えたところで、ばれてる人にはばれてるんだよねぇ……あぁ、というかギルバートは本名なのかな? まぁどうでもいいけど」

「………………」


 レイカは返事をしない。こっちの――エストレージャの情報を握っていますよ、だから抵抗はしないでね、とでもいいたいのかもしれないが、そもそもする気もないのに、とため息をつくだけだ。

 ギルバートは、名の売れた情報屋で(最初出会ったときは偽名で活動をしていたが)、そもそもエストレージャのことを知りたくてあいつから接触してきたんだよな、と、彼との出会いを思い出す。


 情報屋というよりは、情報収集癖だ。

 なんだか面白い集団がいるな! 知りたいな! と、そのぐらいの動機で嗅ぎまわってしまうあいつを、ひょいと捕まえた。ひょいとつかまった情報屋は、そのままエストレージャに居すわったのだ。

 聞いてみれば、情報収集癖のせいで信頼が得られない、気がつくと敵だらけだ、ひとりぼっちだ、としょげていた。随分と可愛らしい情報屋だ、とみんなで大笑いしたのを覚えている。

 じゃぁ、その能力を、ここで存分に発揮すればいい。

 そういって、彼をエストレージャに誘ったのだ。居場所を見つけた情報屋――いや、情報収集家は、その後次々と仲間を見つけ出してくれたのだ。


 アクルも、彼に見つけられた一人だった。



 ブルームーンを渡されたあの後……「やめだ」



 レイカは首を横に振り、急いで思考するのを止めた。何? とローシュが問いかけてくるが、いや、と返すだけだ。


「寂しくなった?」

 と、まぁ心の中を盗み見ているのか、というような言動に、はぁとレイカはため息をつく。


「つまらなそうだね」

「楽しかったら変だろ」

「確かに。でも俺は、レイカと話せて楽しいんだけど」


 そこを左に、行きつけの店がある。ローシュは指先にくるくると巻いていたレイカの髪の毛をくいくい、と二度引っ張った。何をするにも、鬱陶しい奴だ。はいはい、とレイカは左折した。人気のない静かな道に、一件だけ、やけに派手な店があった。あれかな、とレイカは目を細める。硝子窓の向こうに、並んでいるマネキンが数体見えた。


「あの店あの店」

 と、ローシュが子どものように指を指す。店の前に車を止めていいのかよ、とレイカが聞くと、いいよいいよとローシュは静かに頷いた。



「あらぁ、なにぃ、誰ぇそれぇ」


 と、店の奥にいた女性は、ローシュを見つけるなり声を挙げた。思ったより小さな店に、人は一人しかいなかった。客は誰もおらず、音楽もなっていないその店はひどく静かだった。

 女性は、くねくねとした声に似合う、なよなよとした動きでこちらに近づいてくる。ミニスカートに、下着のような露出の多い服を着ていた。


「新人?」

「まだ教えない」


 ローシュは肩をすくめると、レイカ、と顎で女を指した。


「服、着せてもらって。スァン、服は全部捨てて」


 はぁぃ、と女性は答えた。金色の髪の毛はレイカとよく似た長さで、ウェーブがかっているのも同じだった。青い目がきらきらと光っている。背は、レイカよりも低い。頭がレイカの鼻の先にある。


「ねぇ、名前はぁ?」

「レイカ」

「あぁ、呼ばれてたぁね」


 あはは、とスァンは笑うと、こっちおいでぇとレイカを手招いた。店の奥だ。何があるのかは分からないが、まぁ服をひっぺがされるぐらいだろう。レイカは静かに彼女に従った。

 店の奥には、段ボールが所狭しと積み上げられていた。華やかな店とは対照的な裏側を、レイカはぐるりと見渡した。うす暗く、天井に電球がひとつついているだけだ。


「脱いでぇ」

 スァンは扉を閉めると、はいと手を差し出した。レイカは上着を脱ぎ、彼女に渡す。ネクタイを取り、シャツを脱ぐ。


「全部ぅ、見られたくないぃ?」

「……いや」


 レイカはズボンを脱ぎ、キャミソールも脱いだ。下着だけになるが、それでもなお、はい、とスァンは手を差し出してくる。


「……下着も?」

「だってそこに仕掛けられてるかもしれないでしょぉ」

「……全裸になるのは気が引けるんだが」

「そうかぁ」


 ごめん、と笑って、スァンは壁の横にあるカーテンを引いた。レイカとスァンとの間に、白いカーテンが現れる。なぜ、最初からこうしなかったのか、と思ったが、どうやらそれには理由があったらしい。レイカが下着を取る前に、はいぃとカーテンの端から小さな手がひょいと入ってきた。その手が握っているのは、下着だった。無言で受け取り、レイカがそれを着ると、驚いたことにサイズがぴったりだった。


「……見て分かるのか?」

 レイカが聞くと、そうだねぇとスァンがカーテンの奥で笑った。ごそごそと何かを探している音がする。


「はいぃ」

 次に現れたのはズボンだった。黒いズボンだ。ありがとう、とレイカはそれを受け取る。

「どんな服を着ているのか、分かるんだよ」

 と、はっきりとした声でスァンは言った。今までのなよなよとした口調とは別物だ。そうか、とレイカは相槌を打つ。


「それしかできること、ないんだぁ」

 と、口調を元に戻した彼女は、へへぇ、と力なく笑った。はいぃ、と差し出されたシャツは、黒い色だ。なんだか自分が来ていた服と対照的な色が出てくるなぁと思いながら、レイカはそれを受け取る。


「ローシュさんはねぇ、お前のその力は、使えるよって教えてくれたよぉ」

「……そうなのか」

「うん。だからぁ、あなたも安心すればいいよぉ。何があったかは知らないけどねぇ、大丈夫だよぉ」


「……あいつは、ローシュは、何をしているんだ?」


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