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3-3

 しばらく誰も返事をしなかったためか、ローシュはあれぇ、とドアの向こうで声を上げる。


「いませんか?」


 こんこん、ともう二度、ノックの音。ボスは小さな声で「座ってろ」と三人に告げ、ドアを開けた。隙間はほぼ開けず、自分の体分の幅を開けたところでドアを開くのをやめる。


「なんだ?」


 と気さくに笑ってみたが、上手く笑えている自信がなかった。双子とアクルは声をひそめたまま、そっとソファに腰掛けた。双子は隣同士に座り、アクルが二人の正面に座る。


「あぁ、レイカさん。あの双子のお嬢さんたちから事情は聞きましたか?」


 にこにこと笑うローシュに対し、思わずボスは顔を歪めかけた。なんだこいつ、人が考える間もなくぬけぬけと……。

 彼に苛立ちを覚えると同時に、ボスは残念にも思っていた。双子が報告したことを予想して、さらにこちらが考えをまとめる前に行動を起こしてきやがった。

 こいつ、間抜けでは無い。


「聞いたみたいですね」


 と笑うローシュは、悪い奴にはまだ見えなかったが、それでも先ほどまでの「無職の来客」には見えなかった。なんだこいつ、何を考えていやがる。何なんだこいつは。

 まるでボスの考えを呼んだように、私はね、とローシュは言って、微笑んだ。


「私は言伝を預かっただけなんです。ニール君に手紙と、そして貴方がたに忠告です」

「忠告……?」


 てめぇ何をしやがった、と胸ぐらをつかんでやりたかったが、まだ右腕に残っているアクルの手の感触が、なんとかボスを冷静にさせていた。

 静かに呼吸をしながら、なんだそれは、と彼の言葉を促す。

 にぃ、と意地悪く笑って、ローシュは小さく言った。首をかしげて、馬鹿にするような仕草で


「下手に動かないでください。ニール君の命が危ない」


 と言われ、ボスはかっと全身が熱くなった。

 本当に、何言ってやがるんだ、こいつ!


「美味しいご飯を頂いたから、感謝としての警告です。ここからは私の勝手な警告ですけどね……あの人は残忍です……私が雇われている、あの人は、本当に残忍。自分の計画が上手くいかないと、すぐに激昂します、お気をつけて」


 あの人。誰かに言われてここに来たことが証明された。隠しもしないという事は、こいつはそう言う役目としてここに来たことを言ってもいいと、上――あの人とやらから言われている、と言うわけだ。

 あの人。どの人だ。ふざけるな。


「……俺が動かなければニールは平気なのか?」


 いろいろと訊きたいことはあったが、まずはこれだ。ボスは静かに、ローシュに訪ねる。そうですね、とにやつくローシュは、もう気のいい来客には見えなかった。にこにこと笑っているその目が、やけにわざとらしい。


「手出しをしなければ、皆の命の保証はすると伝えろ、と言われております」

「あの人ってだれだ?」


 返事もせず、ボスは次の質問をする。ローシュはボスの態度に不満の色一つ見せず、表情を変えずに首を横に振った。


「言えません。ただ、このローシュは、この屋敷に入り、ニール君に手紙を渡し、ニール君が決断を下すのをあの人にお伝えする係を仰せつかっただけなのです。あ、ニール君が出した結論は直接伝えますので、私はすぐにいなくなりますよ、ご心配なく」


 やけに丁寧な言葉が耳につく。

 へらへらはしているが、真実は言っているし、何かを隠しているようすもない……こいつの役目は、手紙を渡して警告をしたこの時点でほぼ終わっているのだろう。あとは、ニールの返事を聞くだけか。

それまでに、まだ時間はありそうだ。なんとかして、こいつのいう「あの人」やらをあぶり出せないものか……。


 ニール、決断を急ぐなよ。思って、あぁと天を仰ぎたくなる。すぐにでも決断しなければならないような「脅迫」だったら、どうするんだ!


「――俺たちに動くなと言ったのは、本当にお前の独断か」


 少しでも時間稼ぎを、アクルにヒントを……そう思い、ボスは質問を続けたが、

「はい、美味しいご飯の、感謝です。役目はほぼ終えたので、部屋でゆっくりさせていただきますね」

 と、ばっさりと会話を断ち切られてしまった。このタイミングでこの言葉は、どう考えても意図的だろう。


「何も言えねぇのか」

 確かめるように言うと

「何も知らないんです」

 けろっと彼は返事をした。いらつきが頂点に達する。ボスは目を閉じた。もう、彼の顔は見たくない。


「分かった、もういい――消え失せろよ」

 ボスはそう言って、勢いよく扉を閉めた。くそ、と怒鳴るボスを慌ててアクルが止める。先ほどと同じように、ボスの細い腕を、アクルの大きな手がしっかりと握った。


「ボス」

「あいつは嘘を言ってねぇ」

 くそ。吐き捨てるように言って、ボスは赤い唇を噛んだ。


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