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言った瞬間、双子の目つきが変化した。ぎろりと彼女たちはローシュを睨みつけ、二人同時にスカートをひるがえす。太ももからちらりと銃が見えたかと思うと、次の瞬間には双子はそれを構えてローシュを狙っていた。
わぁ、とローシュは冷や汗をかくが、冷静に手を上げる。なんだ、この屋敷は。子どもたちかと思ったら、とんだ番犬じゃないか。
「俺は来客だよ、ちゃんとカードも渡した」
その言葉に、双子は少し警戒を緩めたのか、銃口を下げた。さげたと言っても数センチなので、ローシュを狙っていることに変わりは無いが、それでも警戒が少し緩んだことに、ローシュは安堵する。
「ニール君、君にね、これを渡しに来たんだよ」
頼まれてね、とローシュは笑うと、右手に持っていた手紙を前後に振った。三人はどうする、と目で相談していたようだが、やがてニールが二人を手で制すると、ゆっくりとローシュに近づいた。
「……お兄さんはどなたですか」
「その手紙を読めばわかるよ」
ローシュはにこりと笑うと、はいと手紙をニールに渡した。ニールは慎重にその手紙を取り、眺めた。白い封筒には、何も書いていない。
「ここで開けた方がいい。それと、誰にも見せない方がいいって言う言伝だ」
「わかりました」
ニールは双子に「ごめんね」と微笑むと、ゆっくりと封筒を開けた。
中から、一枚の写真と、小さなメモが出てきた。
ニールの表情が凍るのを、ローシュは無表情で眺めていた。ここで表情を出してはいけない、番犬ちゃんに気が疲れたら厄介だ。
「何か、書いてあったかい?」
少し心配そうな声色で、ローシュは言った。ニールの反応は無い。もしかしたら届いていないのかなぁ、と思いつつも、ローシュは笑いをかみ殺した。
いい表情してるなぁ。
「どうしたの?」
右目に眼帯をつけた少女が、ニールに話しかけた。ニールはその声にびくりと反応すると、急いで手紙をしまった。
「なんでも、なんでもない」
「ニール? 顔が真っ青だよ?」
左目に眼帯をつけた少女が、そっとニールに近寄ったが、逃げるようにニールは後ずさった。
「ごめん、ごめん、ちょっと部屋に戻るね。あ、あの」
ニールはローシュをちらりと見た。恐怖におびえる表情だった。
「あの、これ、ありがとうございました。すみません、わざわざ」
「いえいえ」
「あ、ミクロ、マクロ、これは僕の問題だから、大丈夫だから、すぐに解決するんだ。それでも、ごめんね、あまり他の人には知られたくないから」
双子は驚いてはいたが、冷静に頷くと、同時に「分かった」と言った。ありがとう、とニールは頷くと手紙を大事に抱えて走って行ってしまった。
「何か、書いてあったのかな」
ローシュが言うと、双子はさぁ、と呟いた。表情の無さに、思わずローシュの背筋が凍る。ますます何なんだ、この屋敷は。一刻も早く出たいものだと思いながら、じゃぁね、とローシュは窓を閉めた。カーテンを閉める際に、双子と目があった。
青い目が、疑心をたっぷり浮かべてローシュを見ていた。
微笑みでその視線に応えると、ローシュはカーテンを閉め、ふうと座り込んだ。
「たまらないな、この屋敷は。お化け屋敷かよ」
スリル満点だ。まさか、庭で遊んでいた子供が銃を取り出すなんて、考えられるか?
あの子どもたちは予想外だったが……ニールにこれだけ早く会えたのもまた、想定外だ。いいかんじのスピードで、物事は進んでいる。
しかし、こういったスリルは本当にたまらない。ローシュは乾いた唇をそっと舐めた。
やはり、スリルの中にいないと、生きた心地がしてこない。
「楽しませてよね、エストレージャさん」
ローシュは口元にたっぷりと笑みを浮かべると、暗闇の中で一人小さく呟いた。