2-5
ニールがエストレージャのメンバーに正式になってから、二か月がすぎ去っていた。ニールが元いた集団であるリッツの人達が屋敷に押し掛けてきたことは、まだ記憶に新しい。いくら作戦通りにいったからといって、あれだけの大人数が押し寄せてきたのははじめてだったのだ。もし、あぁやってまた力づくでだれかを攫おうとする輩が現れたら――? という恐怖は、誰もが少なからず持っていた。ボスの外出回数が、少しだけだが減っていたのも、アクルは知っていた。何となく、まだ怖いのだ。
ただひっそりと、暮らしていたいだけなのに。
アクルは重い気持ちになった。もう二度と、あぁいったことは起きないでほしい。ため息をつきそうになったところで、ボスが立ちあがった。そうして、長い伸びをすると、やーめたと天井をボスは見上げた。え? とアクルが訊くと、ボスは真っ白な歯をにっとのぞかせて笑った。
「やめた、考えすぎは良くない! あいつは嘘をついていないのは事実なんだ。きっと腹が減って、仕事も無くて、それだけさ。すぐに見つけて、どこかに行くさ」
「……そうですね」
何があっても、ボスは俺が守るし、と、子どもっぽいアクルがアクルの心の中で笑った気がした。ふ、とアクルが思わず笑うと、ボスが何何? とアクルの目を覗き込んだ。
「なんで嬉しそうなの?」
「……いや」
何でもないです、と言ってもう一度笑うと、ボスはなんだよ! と楽しそうに笑った。二人の笑い声が、ボスの部屋に響いていた。
「さぁて、どこにいるのかなぁ」
暗い部屋の中で、ベッドに転がりながら、ローシュは呟いた。手紙を持っており、ぴらぴらとそれを振って遊んでいる。
外から、きゃらきゃらと子どもたちが笑う声がした。なんだ、この屋敷には子どもがいるのか? と驚くが、同時にもしかしたら、と思い、にやりと笑う。
カーテンを開け、窓の外を見た。
金色の頭が二つと、クリーム色の頭がひとつ、部屋の前を横切った。ローシュはますますにやりと笑うと、いたいた、と唇をなめた。
窓を開けると、三人の子供は驚いたように振り返った。屋敷の外にある緑には目もくれず、こんにちは、とローシュは三人に声をかけた。
「こんにちは!」
「こんにちは!」
と、振り返った少女はにこにこと笑った。金髪の頭の正体は、よく似た双子だったようだ。ひとりは右目に、一人は左目に黒い丸の形をした眼帯をつけている。黒いドレスを着て、無邪気そうに笑っているが、振り向いたその一瞬だけ警戒を顕わにしたのを、ローシュは見逃してはいなかった。
「こんにちは」
と遅れて挨拶をした少年は、クリーム色の髪の毛を伸ばした少年だった。子ども用のスーツに身をくるんでいるが、あまり似合っていない。
やっぱりあの写真のイメージが強いからかな、と思いつつ、ローシュはねぇ、と笑顔を絶やさず言った。
「そこの男の子、君、ニール君だろ?」