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ボスは開口一番、そう言って苦笑した。さぁ、とアクルも思わず苦笑を返す。
「いやさ、これ、見てみてよ」
ボスが机の上に置いてある紙を、ぺらりと表に返した。かっちりとした字が書いてある。ユーナギの字だ。アクルは紙を手に取ると、そこの文面を読んだ。意外な報告に、えっとアクルは思わず声を上げる。
「招待状を上げた人って、ウラウだったんですか、リッツのボスですよね? あの大男」
「そう。お前、よく名前を覚えてるな」
すげぇよ、とボスが笑う。そうですかね、とアクルは照れたように頬を書くと、報告書をもう一度目で追った。
『ボスへ J-322の詳細
招待状の元の持ち主は、先日エストレージャに奇襲しに来た集団のリーダーです。
ボスと門の近くで戦った、図体のでかい男です。
すぐにお分かりいただけると思いますので詳細は省きますが、知りたい場合はご一報ください。イラストと共に再送信致します。
なお、来客と元の持ち主の血縁関係の可能性は低いと考えております。
ユーナギ』
「あいつ、何やってるんだろうな」
ボスの指したあいつ、はウラウのことだろう。図体だけはやたらにでかかったが、この前屋敷に奇襲を仕掛け、しっぽを巻いて逃げだしたところをボスに阻まれ、懲らしめられた輩だ。
「血縁関係は無いようだけど、またウラウはなんかやらかしてるのか――改心してないのかね」
「どうでしょうね。一応ギルに調べてもらいます?」
「んーそうだなぁ、ローシュが怪しげな動きを少しでも見せたら、かな。ローシュは、誰にもらったかを語りたがらなかったし……」
「強奪だったりして」
「ローシュが? そんな力があるのかね……」
困ったようにボスは眉間にしわを寄せると、小さく「わかんねぇんだよなぁ」と呟いた。
「嘘はついてないんだよね」
という言葉に、アクルは安堵する。空腹を装った侵入者というわけではなく、本当に腹がへってすがりついてきた奴だったのだ。
「ウラウがどんな説明をしたか、が気になるな。飯を食わせろなんて、なんだか変だ……まぁ、ウラウが俺たちにあまり気を使わせたくなかった、と考えるのが妥当か?」
「そうですねぇ」
ボスはユーナギのメモをさらにもう一度読み返しながら、ボスと同じタイミングでため息をついた。
「一応、俺は彼に対して、下っ端の下っ端だからこの屋敷についてはなんも知りませーんって態度を取りましたけど」
「おう、ありがとう。やっぱりそれが、来客には一番いいよ。知らぬ存ぜぬで」
ボスはそう言うと、そうだと何かを思い出したように立ち上がり、伝書鳩の近くから一枚の紙を持ってきた。
「こういうの、一応みんなに送っておいた」
アクルは紙を受け取った。ユーナギの字とは対照的な、柔らかな文字が走っている。
『みんなへ
先ほど、来客が現れました。招待状を持った来客です。
空腹の様子でしたので、ご飯を与えました。
仕事もなく、三日ほど泊めてほしいとのこと。
嘘をついているようすは無かったので、承諾しました。
会いたくない人は、最長三日だけ我慢してください。申し訳ない。
何かあったら、いつでも連絡してください。
レイカ』
「いいんじゃないですか?」
アクルは微笑むと、はい、とボスに紙を返した。大丈夫かな、とボスは心配そうに呟く。
「アニータとかギルとか、警戒心の高い奴はには悪いけど」
「仕方ないですよ、来客ですし」
「だよね、ありがと」
ボスは少し安心したように頷くと、紙で顔を隠し、はぁとため息をついた。
「深く考えちゃ、だめなのかねぇ」
ボスの困ったような声に、確かに、とアクルも頭をかいた。
「ニールの件から、少し警戒が強くなってるかもしれないですね」
「な、何が来ても怖くなっちゃうよな」