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2-3

「――ですかね?」

 ローシュの声に、はっとアクルは我に帰る。ローシュが「どうでしょう」と訊いてきたが、何の話か分からず、思わず曖昧な返事をして微笑みを返してしまった。


「ですよね」


 とローシュは頷いた。小さくやはり花束がいい、と呟いたことから、まだ花を贈る話をしていたのか、と考えた。この話は終わりにしたい。アクルは半ば強引に、話を食事の方向に引っ張って行った。好きな食べ物、嫌いな食べ物。


「レイカさんは、どんな食べ物が好きなんですか?」

「……存じません」


 それでもやはり話題をボスの方向に持って行きたがるローシュに、アクルは自分でもわけのわからないもやもやとした感情を覚えていた。

 お前がいくらボスをわかろうとしたって、俺の方が何倍も一緒の時間を過ごしてきたんだからな。

 こんな子どもっぽい考えまで浮かんでしまい、自己嫌悪の渦にも巻き込まれる。アクルは、こういった自分の子供っぽい部分を自覚していた。やっと手に入れた自分の居場所を、必要以上に守ろうと必死なのだ。


 甘いものより苦いものがお好きそうですね、とローシュが行ったところで、ボスが戻ってきた。

 ばーか、甘いものが大好きだよ。

 そんな子供じみた台詞を飲みこみ、アクルはボスと一緒にローシュが寝泊まりする部屋に向かった。空いている部屋はたくさんあるが、周りに空き部屋の多い、レイカの部屋の近くにある部屋に案内した。


 三人は中に入り、ボスがいろいろと部屋の説明をした。ちらりと壁を見ると、壁に埋め込まれている伝書鳩と内線電話は、上手いこと隠されていた。ばれたくない相手が泊まることもあるだろう、というギャンの計らいが生きている。さすがだな、と思いつつ、アクルは説明が終わるのを待っていた。


「じゃ、これ部屋の鍵。出て正面の部屋が俺の部屋だから、なんかあったら呼んで。多分ずっと部屋か食堂にいるけど、いなくなる場合は扉にどこにいるかを書いておくから」

「何から何まですみません」

「気にすんな。いつでも出て行っていいけど、俺か、門のところにいた警備員に一言声をかけてくれるとありがたい」

「分かりました」

「んじゃ、晩飯になったら呼びに来るよ。ゆっくり休んで、疲れてるだろ」

 ボスの言葉に、実は結構、とローシュは恥ずかしそうに笑った。じゃ、お休み、と声をかけ、ボスとアクルは外に出た。出てすぐ正面の部屋がボスの部屋だ。ドアは反対側の壁についているため、ぐるっと壁を回らなければ到達しない。


 どうしましょう、とアクルはボスに目で訴えかけた。ボスはちょい、と人差し指を手前に引いた。ついて来い、の合図だ。きっと、ローシュが本当のことをどれだけ言っているのか、教えてくれる。

 ほら、ボスは俺に、いろんなことを教えてくれるよ、大丈夫だよ。心の中の自分が、自分に言い聞かせているような気分になった。


 俺は怖がりだな、とボスの背中を見ながらアクルは考えた。

 ボスの隣という居場所を、どうやったって失いたくない。だから、子供じみた嫉妬を覚えたり、ありえない想像をしたりするのだ。

 嫉妬心や想像を、アクルは何度も殺してきた。不安や恐怖も、一緒に殺した。

 感情を殺すのは得意だからなぁと、人ごとのように自分を分析している間に、ボスの部屋に到着した。入って、とボスが小さく言った。シンプルな、見慣れた部屋だ。

 ずっと、こんな日が続けばいい。

 そう願いながら、アクルは気持ちに整理をつけた。久々に乱れた心を落ち着かせ、感情が外に現れないように冷静を装いながら、ボスの部屋へと入った。


「どうぞ、座って」


 いつものようにボスに促されてから、アクルはソファに腰掛けた。はい、とボスがくれる飲み物が嬉しい。今日は缶のイチゴジュースだ。ボスも同じジュースを手に取り、どかっとアクルの目の前に腰を下ろした。そうしてひとつ息をつき、話を始める。


「あいつ、なんだろうな」


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