その1
私がこの物語を書き記すに至って、ひとつ言っておかなければならないことがある。それは、この物語が私を第一章節としている訳ではないということだ。
わたしの語りは誰かの読点から始まり、句点から始まり、あるいはandの後に始まる。orではない。その理由を今ここで説明することは可能だが、控えよう。それが、この物語を魅力的に語るコツだと学んだからだ。
ニャメウイの街。(どうしてこんな変な名前をつけたのか?多分、占領時下の名残だろうが、このセンスは私には、わからない。)
ここは、険しい山と山の間に位置し、国の重要な防衛拠点のひとつとなっている。
実際、この街は戦時中の砦を利用しており、迷路のように曲がりくねった狭い道、石で組まれた強固な家壁、ところどころに設置された隠し砲台の跡が、当時の戦争に深くかかわったこの街の歴史を物語る。
私がこの町に立ち寄ったのは、私個人の意思ではない。交易のキャラバンが、国の中央部で作られた優秀な武器防具を届けに来たのだ。
私はそのキャラバンの護衛だった。強力な武器防具を狙う盗賊や、そしてなにより、怪物による襲撃からキャラバンを守るために雇われた。つまり、いつものことだ。
交易都市コドリンの東門から出発した私たちは、街道を半日ほど行進し、一日と半分かかって砂漠地帯を抜け、出発後三日めの夕方、ニャメウイの街にたどり着いた。道中はいたって平穏で、せいぜい酔っ払ったコリーが雇い主に楯ついて減俸を食らっただけだった。
ニャメウイの街の様子は、3年前に来た時と変わっていないように見えた。印象的だった朝焼けが、夕焼けに変わった程度。夕焼けも綺麗である。ところで、家よりも人のほうが早く死ぬというのは、そこに住む者たちにとって、どういう気持なのだろう。私の故郷では、年に一回はどこかの家屋が倒壊する。壊れたら付近の住人が協力し合い、2週間かそこらで、もう新しい家が建ってしまうものだった。
私は習慣として、立ち寄った町をぐるりと回る。そう、もちろん優れた傭兵がそうするように、町の地理を把握したかったのだ。酒場で一杯やっつけるのが目的なはずは、無いではないか?
ようやくそれらしいところを発見し、中へと進入する。中にいた者たちは少なからずぎょっとしたようだった。視線の先を見て、見ようとして、すぐにわかった。私の容貌がその視線の先にあると。
体が健常でないのは、不幸なことではないといった何某がいた。ただ、不便なだけであると。たしかにそうだ。ただしそれは、右腕を失い、職を失い、生涯を共にするはずだったパートナーを失った境遇から立ちあがって、はじめて口にできる言葉だ。そして私は、座ったままだった。他の者が立ち上がり、去っていくのを尻目に。
思い出すのをやめて、店主に注文する。グィラン・レ・マルビス酒という、もう名前からしてもの凄い酒だ。ただ、弁明しておきたいのは、私が夜にもなりきらないこんな時間から、こんな酒を飲むわけではないということだ。
私はいつも、この酒を皮の水筒に入れて持ち歩いている。戦闘のときはこの酒で己の士気を鼓舞する。この酒は私にとって、まさに命の水なのである。だから、外が騒がしくなっても、店主がこの酒をカーヴから出してきて、震える手でこの小汚い皮袋に注いでくれるまで、私は動かなかった。
そして動き出す。あることを思い出したからだ。私は店主に、外の喧騒の原因を聞いた。一応、だ。店主は答える。
「あんたも逃げろ、怪物だぞ!」
店主が言い終わるのと、怪物がドアを破って侵入するのが同時だった。
私は、注がれた酒に一口つけ、右腰に挿した剣に手をかけた。
なぜ、こんなことを話したのだったか。そうだ、まったく変わらずに、ピースという言葉を10個ほど重ねたいくらい平和だったということを言いたかったのだ。閑話休題には、まだ早い。
あとがきを読むのは好きなわたしですが、書くのは苦手ですし、そもそも、第一作でそんなことを書くのは心苦しいです。おこがましいです。




