Ⅰ-4
・・・さよならを言いに来た・・・?一体どういうことだろうか。
「雄太には分からないことだろうし、私にだけ意味があることだから気にしないで」
不審な顔をしたからだろうか。燐華は俺に向かってそう言い、ついでに自身の顔の前で手を振り何でもないという仕草をしてみせた。
「何か言いたくないなら別に深くまでは聞かないからさ、こっちこそすまんな」
「そんな謝らないでいいけど」
「じゃあ前言撤回するわ」
「そんなあっさり撤回されても・・・。まあ私が言ったことだからいいんだけどさ。あとさ、質問を返すようで悪いけど雄太はなんで今日ここに来たの?」
燐華が謝らないでいいと言ったから訂正したのにそんな微妙な顔をされても・・・それで俺がここに来た理由だって?それは・・・
「俺は俺の道を行くだけなのさ。理解できたかね、我が幼なじみの燐華よ」
「うん、とりあえず雄太が気持ち悪いことを理解したよ」
あれ・・・なんかデジャヴ・・・。
「ふざけるのはやめてくれるかな?我が幼なじみの雄太君?」
さすがに次のセリフまで妹と同じってことにはならなかったか。
うーん・・・あと燐華様の目がなんか据わっているのが怖いなー・・・冗談言うタイミングではなかったようだな。
「言いたくないなら素直に言ってくれればいいのに。私も言わなかったしさ」
「いや別に言ってもいいんだけどさ、冗談の一つ二つ言いたくな・・・らないですねそうですねすみません謝るのでその固く握っている右手をこっちに向けないでくださいお願いします」
「はあ・・・なんか拍子抜けちゃったよ。それで?なんで来たの?」
またもや溜息を吐く燐華。いや、俺のせいか。ここは責任を取ってあげないと、男の名が泣くぜ。
「んーまあそんな大した理由じゃないから聞いても面白くないと思うけど。それでもいい?」
「大丈夫、雄太に大した理由あるとは思ってないから」
・・・さっきまでのやり取りは何だったんでしょうか・・・。
「俺はさ、明日で世界が終わるって言われてもさ特別なことはしたくないんだよ。いつものように朝起きて学校行って帰って寝て・・・そんなくだらないことを終わらせたくなかったからここに来たんだよ」
そう、俺はいつもの日常を終わらせたくなかったのだ。
明日で世界が終わる?だからどうした。俺は自分の生活をそんな理不尽なことで終わらせたくなかったのだ。
これはただの自己満足だ。
だがそれが俺の唯一の抗いであり、願いだ。
あのコンビニの店長のようにハワイに行くのもいいだろう。恐らく今家でゲームをしている妹のように家に引きこもっている人もいるだろう。
結局皆同じなのだ。
最後に自分のしたいことをしたい。ただそれだけなのだ。
そこには意味なんて無い。あるのは・・・
「自己満足ってところかな?」
燐華は俺の言葉を聞き少し納得したような顔をして言った。
そして彼女は俺から顔を背け少し離れて空を見上げた。
「でもまあ、だからといっていつも通り学校に来るのは雄太ぐらいだよね」
軽く笑いながら彼女はそのまま空を見上げていた。
「おまえも来てんじゃん」
「私も似たようなものだけど、ずっとここにいるつもりはないよ?これから予定あるし」
そして彼女はドアに向かって歩き出した。
「じゃあ、私はもう行くから。少しだけだったけど久しぶりに雄太と話せて嬉しかったよ。これが雄太との最後だろうけど・・・バイバイ、雄太」
「ああ・・・じゃあな、燐華」
彼女はドアを開け、振り返ることなく去っていった。
彼女を見送り俺は一人になった。
しばらく彼女が出ていったドアを見つめ、屋上の床に寝転がった。
「空が青いなー・・・あと太陽思ったより眩しいんだけど・・・」