Ⅰ-2
騒がしい妹の邪魔はあったものの、無事に学校へ向かうことができたな。うん、マジでよかった。でもまあ、実際家から徒歩10分圏内の高校に通っているので大して焦ってはいないのもまた事実だ。
「・・・なおさら今日という日だしな。どっちにしろ遅刻云々で焦ることはないな」
そう、先ほども玄関で妹が俺に問いかけたように本来なら学校に行く意味はないのだ。
今の時期に学校はさすがに休校ということになっているので、学校に向かう俺はむしろ校則違反と言ってもいいだろう。
「 ・・・でもあれだよね、こんな状況じゃ校則違反も何もないんだよなー・・・。」
微妙に自虐しつつ登校途中にいつも寄るコンビニの前に来たのだが・・・
「なんだこの張り紙は・・・」
そこにはこの度閉店させていただきました、という類の張り紙がしてあったのだが
『勝手ながら閉店させていただきました!なお店長の私は最後の思い出としてハワイに行ってくるのであります!』
・・・うん、なんというか正直でいいと思うよ。わざわざ行先まで書く当たり店長の人柄がよく分かる。別に分かりたくなかったが・・・。
店長には最後まで会う機会がなかったが、たぶん俺とは馬が合わないだろうな。この文を読む限り。
軽く失笑しながらそのコンビニ前を去ろうとしたのだが、張り紙の最後の文を読んで思わず立ち止まりながら真顔に戻り、しかしすぐに軽く今度は失笑ではない笑みを浮かべながら今度こそその場を去る。
「そうだよな・・・。俺は俺だ」
誰にも聞かれないであろう独り言を呟きながら張り紙の最後の文を思い返していた。
『どうか皆さんも最後まで後悔のないように・・・自分自身を最後まで貫いてください』
・・・前言撤回。顔も知らない店長さんよ、あんたとは意外と馬が合うかもな。
多少の寄り道をしながら校門の前に着いたのはいいが・・・案の定というか予想道理というか・・・
「やっぱり人はいないよなー・・・」
そう、この時間帯なら多少なりとも生徒が登校し、学校特有の独特な喧騒に包まれているのだが・・・生徒はおろか、教師もいないようだ。
「むしろだれかいたら僕ちん驚いちゃうよ」
軽くおどけつつ校門をくぐろうと一歩踏み出す。・・・さすがにこの場じゃ軽く冗談言わないと入れないよ。
それだけ誰もいない学校は不気味なものなのだ。深夜ならともかく、太陽が昇っている時間に誰もいない学校は前者と比べても不気味だ・・・。まあ、深夜に学校に行ったことはないのであくまで俺の想像なのだが。
そんなことを思いつつ、いつもの習慣で下駄箱にむかい革靴から上履きへと履き替える。
ふと思い、軽く周りの様子を見てみるが・・・やはり下駄箱に革靴を入れている生徒はいないようだ。
いや、別に誰か実はいるのかなーとか思ってないぞ。でももし小説とか漫画だったら、なぜここにいるんだ・・・!みたいな展開がおいしいじゃん?
本当にそれだけだよ?いや、マジで。
「・・・あほくさ。教室行くか・・・」
自分でもよく分からないツッコミをしつつ昨日まで授業を受けていた3年2組へと足を階段に向けた。
この高校では階層ごとで学年を区切っている。
一階なら1年生、二階なら2年生、三階なら3年生と分けられている。音楽室などの特別な教室は特別棟という別校舎にある。
特別棟には特に用はないので淡々と三階まで昇り、お隣の1組を通り過ぎ自分のクラスに辿り着く。
人がいないのは分かっていたが、昨日までここで授業を受けてた身としては意外と堪える。
ひとまず教室の入り口とは正反対の窓際列にある前から4番目の自分の席まで足を進める。
「・・・三階ってやっぱり不便だよなー」
今この状況とは全く無関係な独り言を呟きつつ慣れ親しんだ椅子へ座る。
椅子などの座れるものはクッションなどの柔らかい素材でできているものが座り心地がいいのは当たり前だが、不思議と慣れれば今座っている固い椅子でも心地いいと思う。
慣れって怖いなー・・・。
しかし今は軽く火照った体には冷たい椅子の感触がちょうどいい。
しばらくそんなことを考えながら、ふと天井に目を向けてみる。確かこの上は屋上だったよな・・・。
「思い出作りに行ってみるか・・・」
この高校では屋上は常時解放されているらしい。・・・らしいというのは俺が行ったことがないからだ。
理由は単純明快。階段を昇るのがめんどくさいからだ。
でもまあ、最後ぐらい屋上からの景色というものを眺めるのもいいだろう。
そう思い、椅子から立ち上がり先ほど昇ってきた階段に引き返してまたさらに階段を昇っていく。
昇った先には屋上へ通じるドアが見え、そのドアを開けようとドアノブに手をかける。
「え・・・。開かないんですけど・・・」
ドアノブを右に回すがなぜか開かない。ならば反対に回すのかと思ったが・・・それでも開かない。
おい、誰だよ、屋上は常時解放してるとか言った奴。
見も知らぬ生徒さんに愚痴りつつ、ならばあきらめるかとドアノブから手を放したとき
「屋上を開けるにはまず職員室から鍵をもらわないとなんだよ。知らなかった?」
後ろから声が聞こえ、誰だと思い勢いよく後ろを振り向く。他にも学校来ているもの好きがいるのかと、自分のことは棚に上げつつ声の主を見る。
「やっほーおひさー。まさかここで雄太に会えるとは思わなかったよ」
その声の主は俺の幼なじみである高木燐華だった。