東京は異世界に浸食されてしまった
続き
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何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ、ドコダ。
深淵が溶けた。
気付けば彼は、異世界と化した日本にいた。
高沢には、これをどのような言葉で表現すればいいのか分からない。
都心の高層ビル群は、雲の隙間から何千、いや何万と伸びる木の根のようなものに押さえつけられつぶされそうになっている。
高沢はその根に、非常に畏怖に近い感情を抱いた。
それは白だった。白亜と言えば分かりやすいが荘厳であると同時に、何か強い意志を、生命力を、恐れを感じさせ、逃げ出したくなるような気持ちになった。が、今や東京一帯が根の支配下にあり、辺りをぐるっと見渡しても、隙は存在しない。
空は厚い雲に覆われ、薄暗く、そして根が伸びていた。
「…はっ?」
高沢は冷静な人間だった。が、その能力をもってしてもこの状況は理解しがたいものだった。
ありえない。
それは当然の結論であり、至極まっとうであった。
根が一本、こちらへやってきた。さっきまで乗っていた山手線に勢い良く突き刺さり、根はそこで動きを止める。そこから繊細な根毛が張り巡らされ、車体はみるみるうちに飲み込まれてゆく。
外に出ていた高沢も一緒に絡みつけられ、数秒で全身が覆われてゆく。
そういえば、ほかの人間はどうしているのかな。そんなことを思いながら、彼は消えて行った。
妹は、どうしているのだろうか。まだ、タクシーの中か。
彼はそのまま、眠りについた。
次に目覚めたとき、高沢は国立施設のベッドの上にいた。
ひどく無機質な部屋だった。壁は真っ白で久々に浴びる光の量にチカチカと眩暈がする。
彼はここがどこなのか考えを巡らせてすぐ、意識を失う直前に、自分が異常な世界を視界に捉えていたことを思い出す。
薬品の匂いが籠る部屋の中を何度もよろけながらベッドの周りをぐるぐると周回する。
俺は精神病院に送られたのかもしれない。
高沢は怪我をしていなかった。が、恐らくここは病室であり入院させられていたとなると、俺は何かおかしなことをやらかしたのかもしれない。
自らの足が足がおぼつかないことから推測するに、軽く半月は眠っていたことになる。もしや、何かおかしな薬を使ってしまったのかもしれない。あのおかしな幻想もその後遺症だとすれば。
金属製のドアがすっと開く。音がない。そういえば高沢は、目覚めてから音という者を認識していないと気付いた。この白い壁に、音という音が吸収されているのかもしれない。
が、彼女の声は部屋によく響いた。
「あっ、目が覚めてる」
入ってきたのは高沢と同じぐらいの年であろう女子だった。きっちりとした白衣を着こなし、顔つきは大人びていて、そこに取り付けられたパーツは全てシンメトリーだった。
正直、生きているのか分からないような表情をした人間だった。が、とても美しい。作り物めいた美しさがそこにはあった。だから反射的に、目を逸らしてしまう。
「キミが高沢翠人君だね?へぇ、同い年か。話は合うかもね」
どうだか。俺は彼女に対して近づきがたい壁を感じる。口調とか。
「突然のことでびっくりしているでしょ」
「…あぁ」
うわぁ、上手く声が出ねえ。どもった、どもった。というか普段から人と話をしない俺は、いつも通りなんですけどね。寝ていた時間のせいにはできない。
「ま、外に出る?」
「ちょっと待て。ここは精神病院じゃないのか?だったらむやみに部屋から出しちゃ…」
「?」
彼女は一瞬、本当に訳が分からないというふうに眉を顰めると、何か合点がいったらしく急に笑い始めた。
「あはは。そういうことか。君は冷静だね。あの世界をそんな風に分析するとは」
そして、改めてこちらを見ると少し微笑んでこう言った。
「私の名前は、長瀬御巴留。やっぱり君は外を見た方がいいかな」
病室から出て、焦点距離が掴みづらいような長い廊下をひたすら歩く。正直、久々に運動するこの体ではかなりきつい。が、弱音を吐くことははばかられた。きっと彼女なら休ませてくれるだろうが、俺の意地と、彼女の話す外の世界への強い興味があったからだった。
途中、何人か白衣を着た男女に出会ったが長瀬に軽く会釈をすることもなくこちらを無視するように通りすぎた。
「着いたよ」
廊下の突き当り、巨大な窓ガラスの向こう側に街の景色が映る。わずかながら太陽の光が差しているので昼間だと分かった。廊下には一枚も窓がなかったため、それすら分かっていなかったのだ。
が、視界に東京の街が見えるとそんなことどうだってよくなった。
「これが…、東京?」
スカイツリーは無かった。いや、それどころか俺が知っている高層ビルもマンションも、信号機も巨大な広告も看板も。全てが消え去っていた。
そこには、西洋の街並みがひたすらに広がっていた。
「4月8日、東京は未曽有の天災によって変えられてしまった。ちょうど今から2週間と1日前、君が倒れた日にね」
両手をガラスに当て、もっと近くに寄ろうとする。しかし、いくら目をこすっても、その景色は消えない。
「今まで東京に存在した建物や道具、人間の営み、またその人間さえも変えられてしまった。正確に言えば、同化させられてしまった」
何とだよ
「異世界とね」
何を言っているんだ。
すると彼女は、右手をすっと伸ばし人差し指を窓とは反対の方に立てて
火を噴きだした。
「私はね、科学者なの。小さい頃から勉強を頑張って、アメリカに留学して、あなたと同い年だけど、もう大学も卒業してる。けどね」
長瀬はうなだれる。光のせいで表情は読み取れない。
「全部無駄だったのね。こんな物理でも化学でも説明のつかない、超能力なんて。存在するわけないと思っていたのに。よりにもよって私自身が使えるようになるなんて」
東京は、異世界と化した。そこに住む人々も建物も
全部、異世界のものだ。
次回もどうぞ