きっと‥
恋についての短編を描きたいと思い、心が感じる恋について書きました。
この女性と暮らし始めて三ヶ月くらいになったのか、少しづつ隠し切れない本当の姿が現れるようになっていた。
始めからこんな女性だと隠さずに出してくれたら、気にならずに続けていけたかもしれない。本当は彼女は何も悪くないのかもしれない、ただ僕が求め過ぎてしまうのかも、理想を求め過ぎて本当には、恋が出来ないのかもしれない。
彼女の部屋のベランダで、遠くで瞬く小さな星を眺めていると、何かを感じたのか、真剣な声で言った。
「何を考えているの」
疑問を投げかけるような声に、なぜか僕は思い出した。星を見つめて過ごした夢のような日々を。
「僕がまだ十代の頃、始めて正式に仕事をした所が山の上にある国定公園の中のホテルで、僕は寮に住んでいたんだけど、仕事が休みの日の前日は夜遅くまで星を眺めて過ごしたんだ。君が何を考えているのと問いかけた時、思い出した」
「そうなんだ、思い出す前は何を考えていたの」
彼女の言葉に、まばらに瞬く微かな星を見ながら、別れを思っていたことに気づかされた。
「星がたくさん瞬いていた。星を眺めていたら、いつからか一緒に星を眺める女性が出来た。ホテルの厨房で皿洗いの仕事をしていた女性、とても可愛らしい笑顔で、素直な人で、僕に恋していると、一緒に居ると幸せだと始めて会った日に告白された」
僕は始めて会った時のあの女性の笑みを思い出していた。
彼女は僕の異変に、感づいていた。
「あなたはその女性が好きだったの、それとも今でも好きなの」
「好きというか、恋していたのかもしれない」
「その女性もあなたに恋していると告白したのなら、あなたの恋はどうして‥」
「彼女には旦那さんがいた。子供もいた。もしかしたら孫もいたかも」
彼女の表情が変わった。
「とても歳が離れていたんだ、彼女から見たら僕は自分の子供より若い、子供みたいなものだった。でもあれは恋だった。僕が仕事を辞めて寮を出る時、最後の夜にあの女性は星を見上げながら声を殺して泣いた、僕は彼女を抱きしめて頬に唇を当てた。僕も星を見上げながら泣いていた、だからきっと‥」
黙って話を聞いていた彼女の瞳から、雫が溢れていた。
見た事のない彼女の表情を見ていると僕も涙が溢れてしまいそうになり、微かに瞬く、星を見上げた。
心は思い描く姿である。心の年齢を決めるのは自分でしかない。僕はそう考えている。